本書は、中国人の制度派経済学者が現状を分析しつつ、市場改革論を展開した論を集めた論文集だ。市場改革論というと西側諸国に見られる新自由主義を連想しがちだが、それとは異なる。そもそも、考察対象が社会主義経済だからだ。そして、「漸進主義的」といわれた中国の改革が、所有権の改革を伴いながら行われていった様子が具体的に描かれている。これまで、漸進主義的改革と言われる中身がはっきりしなかったのが、明確になる。 改革はまず、農村・農業から起こった。人民公社方式を止め、農業経営請負制に変更し、納税後の余剰物は農家の所得とした。農地も、農家の使用権が認められ、さらに譲渡可能にもなった。これにより農家のインセンティブは高まり生産性は向上した。ここでは所有権の再定義という制度改革と経営請負制という経営改革が同時に行われている。 商工業の発達は、これとは少し異なった方式で行われた。まず、従業員を雇うことが合法とな