竹内研究室の日記 2019 | 01 |
中学でも、高校、大学でも最近の学校は 「創造性を持った課題解決能力の教育をします」 「プレゼン力、コミュニケーション能力を育成します」 とアピールするところが目に付きます。それに、「グローバル力」を付ければ役満でしょうか。 これは企業が欲しい学生像だったり、学生が就活でアピールする時の言葉でもあります。 しかし、私も教育に携わる一員として、このような風潮がいまひとつ理解できません。 基礎の学力ができていない学生に特殊な教育をすれば、課題を解決できるようになるのか? 話す内容を持たない人が卓越なコミュニケーション能力を発揮してプレゼンできるのか? 学生もかわいそうです。 基礎の教育がおろそかのままで、「創造性を発揮して」「課題を解決し」「プレゼンしろ」と言われたら、デタラメを堂々と話す若者が量産されるのは必然です。 問題なのは若い人ではなく、そうした人を育成しているシステムです。 現在の「課
私も青色LED、青色レーザーの材料の物性の研究を卒論、修士でやっていたので、今回のノーベル賞は20年前の自分の研究を思い出してとても懐かしく感じます。 私は当時、青色LED、レーザーで最も有力視されていたZnSe(セレン化亜鉛)の研究をしていました。LEDやレーザーそのものの研究ではなく、ZnSeを作成する企業の方にサンプルを頂いて、基礎的な物性を調べていました。 極低温に冷やし、紫外線レーザーを当てると、今のLEDやレーザーのようにZnSeが青い光を発していたのは本当に美しかった。 今回のノーベル賞でとても不思議だったのは、中村修二さんは当時主流だったZnSeの研究をせずに、なぜあえてGaNを選んだのか。 どのようなコンセプトがあったのか? 当時の状況を知る一人としては、GaNを選んだ理由がどうしもわかりませんでした。 日経ビジネスの記事「中村修二氏が語る、青色LED開発前に学んだ2つの
中村修二さんがノーベル賞を受賞されたことから、お祝いとともに、日本の科学技術の今後について心配する声など、メディアの方の取材の依頼を受けるようになりました。 本当はフラッシュメモリがフラッシュメモリにノーベル賞が授与され、開発チームの一員、当事者としてメディアの取材を受けたかったのですが仕方ない。日本の技術者の処遇を考えるきっかけになれば良いと思います。 問い合わせて頂く内容は例えば、 「日本の技術者は虐げられているのではないか」 「ノーベル賞は日本の経済が良かった時代のもので、これからの日本の科学技術は競争力があるのか」 「日本の技術者・研究者は報われないのではないか」 「日本の大学の研究環境は悪化するばかりではないか」 「特許法の改正で特許の帰属が発明者から企業に変わることで、更に技術者のモチベーションが下がるのではないか」 個々の取材にお答えするのも面倒なので、このブログでお答えしよ
青色レーザーダイオードを実現した赤崎先生、天野先生、中村修二さんがノーベル賞を受賞されました。本当におめでとうございます。 特に中村修二さんは企業(日亜化学)での仕事で受賞したわけですから、私は中村さんよりも下の世代ですが、企業で技術者だった私は大変勇気づけられました。 大変失礼な言い方をすると、赤崎先生は偉すぎて雲の上の存在ですが、中村修二さんならひょっとしたら自分もなれるかもと、企業などで実用研究をしている技術者にも思われるところがあるのが、今回のノーベル賞は良いですね。 また実は私は学部、修士の時に青色レーザーに関連する研究をしていたので、昔(学生時代)を思い出して感慨もひとしおです。 当時は青色レーザーを目指して、今回受賞したGaNとZnSeが激しく競争。いずれの陣営も日本の企業・大学が中心で、「日本を制したものが世界を制する」という、日本の黄金期でした。 私は「負け組」であるZn
東芝をやめて大学に移ってから7年が経ちました。大学に移った当初は全く研究資金が無くて金策に走る毎日。そうしているうちに助けて下さる方いて、何とか研究室を立ち上げることができました。 当時はまだ日本の半導体はそれなり頑張っていたので、半導体産業への期待という意味で国家プロジェクトが立ち上がり、その恩恵も受けました。 おかげさまで研究室が立ち上がり、研究スタッフも集まり、多くの方のご支援のおかげで、自分では思ってみないほどの成果をあげられました。 まさか毎年ISSCCで発表できるなんて、思ってもみませんでした。 研究はとても好調ですが、実は今、予想外の逆風にさらされています。 自分の研究は順調だし、古巣の東芝のフラッシュメモリ事業も絶好調、ビッグデータを蓄えるストレージ産業も絶好調。自分の周辺だけは何の問題もありません。むしろ、状況は良くなる一方。 ところが、気付くと、周囲の他の日本の半導体や
早稲田の小保方さんの博士論文への対応は実に考えさせられるところが多いです。 いい加減な論文でも学位はオッケー、というのはまじめにやっている学生や指導している教員にとってはやり切れない思いでしょうね。 それに、少なくとも早稲田の(早稲田以外もある?)学位のレベルがばれてしまったわけで、博士取得者への評価も下がるでしょう。 でも、実はこの件で腹を立てているのは、自分のような大学教員や(苦労して)博士を取った人だけかもしれません。 大概の人は、「別に学位を与えて人が死ぬわけでもないし、お金が無くなるわけでもない。別にいいじゃないか」という反応かもしれません。 政治家の発言などには、そういうニュアンスを感じますね。 というのも、学位の基準になると、誰しも自分のことを思い出してしまうわけです。 博士は取ってなくとも、「そういえば、自分は大学ではほとんど勉強しなかったし、いい加減な卒論でも卒業できたよ
オバマ大統領が来日した際、日本未来館で東大発のロボットを開発するベンチャー、シャフトの創業者たちと彼らの製品のロボットと会ったそうですね。 ロボットと言えば、日本のお家芸。今でも産業用のロボットは非常に日本企業が強いです。 その一方、二足歩行のようなヒューマノイドのロボットはおもちゃとしては面白いけど、なかなか産業として離陸することが難しい。 介護ロボットとして有望と言われていますが、実用化はまだ遠そうです。 産業が広がらないために、シャフトもなかなか日本では資金を集められなかったと言われています。 結局、グーグルに買収された(してもらった)。 投資対象としてロボットを評価する時に、おそらく日本のメーカーは、ハードウエアとしてロボット単体の商売を考えたのでしょう。 そうすると、最近のロボットは、高度なセンサを搭載し、AIなどを使って賢いアルゴリズムを実装して高機能化してきたと言っても、まだ
「小保方さんを見て、女性でかわいそうと言うおっさんが居るようだけど。そういう女性やおっさんこそが、マジメに仕事をしている女性の敵なんですよね。要はやった仕事の中身で評価してない。」 というツイートがたくさんリツイート(今のところ1200くらい)されて、やっぱり同じように感じている方が多いんだなと実感しました。 小保方さん個人のことは私はもちろんわからないので、良くある一般的な話として、書こうと思います。 痛感するのは、こういうオジサンは女性を評価している振りをして、実際は正反対。女性の仕事の中身を見て評価しているわけではないということ。 オジサンは飲み会とかで若い女の子をチヤホヤできて楽しいし、こうした女性の方も楽して仕事ができるという共犯関係(男を使うことも)。 こういうのは、どの職場でもある程度はあるのでしょうが、理系の企業では女性がとても少ないので、女性は希少価値。で、比較的多いのか
STAP細胞は研究成果の疑惑から博士論文のコピペにまでなってます。 あたかも成果さえ出れば博士論文なんてどうでも良いのでは、ということまで言う人が出る始末。 そこで、そもそも博士論文とは何か?、について書いてみようと思います。 まず私は大学院は修士で卒業して博士課程は行っていません。 博士論文は東芝での研究をまとめたもので、論文博士。博士とは何たるか、語る資格が自分にどれだけあるか、自信があるわけではありません。 むしろ、博士課程の学生を指導しながら、自らも博士とは何たるかを学んでいるところもあります。 ですから自分ができているかはさておき、「博士とはこうあるべき」という、いわば自分が理想にしていることについて書こうと思います。 技術や科学は日進月歩で進化するもの。逆に言えば、世界初の成果も、すぐに否定されるのです。 ISSCCのようなトップ学会では、「世界一であるか」が厳しく問われます。
就活は勝負どころになりましたね。 就活は11、12月から始まり、ダラダラと長く続くのですが、実質的な選考は3月からの短期決戦。 この数週間で一気に内々定が出だすので、乗り遅れると厳しくなる。ダラダラやってないで、12月ごろにさっさと早く決めればいいのに、と思わないでもないですが。 それはさておき。 先日、Wedgeの4月の就活特集“「就活」が日本をダメにする”で取材を受けました。 ちょっとだけ私のコメントも掲載されていますが、取材の時に記者さんとお話してとても印象的だったことは、 「リクナビのようなネットで就活する悲劇は、学生がさも平等で誰でもチャンスがあると錯覚する」 ということ。 なるほどなあ。 現実は、ネットによる応募も大学名によって落とされたりするようですし、採用で「完全な平等」なんてあるはずないですよね。 日本企業は一度雇用してしまったら解雇は難しいから、より慎重な上にも慎重にな
日本ではITやエレクトロニクスはダメダメですが、一歩、国外に出れば成長産業。 私が研究しているSSDや半導体メモリを使ったストレージは、ITのクラウド化で猛烈に成長している。 例えば、Flash Memory Summitという8月にシリコンバレーで行われたマーケティングの会合では、400件以上の発表が行われ、4000人もの参加者が。 でも、日本の半導体やITはリストラなどの後ろ向きばかり。GoogleやAmazonのように、世界はドンドン進んでいくのに、日本はどうするんでしょうね。 私は日本の大学に居るし、国(税金)からも予算を頂いて研究している部分もあるので、何としても、日本の企業に貢献したい、復活のお手伝いをしたいと思っています。 ですが、共同研究などのお話をしていると、愕然とすることばかり。 研究するには、それなりにお金が必要ですが、「金は出さないけど、権利は全てよこせ」というケー
iPhone5Sが発売になりました。au、ドコモ、ソフトバンクの料金設定について、いろんな駆け引きがあるようですね。 それはさておき、フラッシュメモリの観点からiPhone5Sの価格を見てみましょう。 どの会社でも、新規購入・機種変更を問わず、iPhone5Sの16GBモデルに比べて、 ・32GByteモデルは1万320円高い ・64GByteモデルは2万640円高い 中身の違いは単純にフラッシュメモリだけですから、 ・16GByteのフラッシュメモリを1万320円 ・32GByteのフラッシュメモリを2万640円 で売っているわけです。 一方、中身は同じフラッシュメモリの16GByteのSDカードは価格.comの最安値は、925円。 つまり、高々、千円のフラッシュメモリを一万円くらいでアップルは売っているわけですね。 なんと、価格が10倍です。 しかも、フラッシュメモリを製造しているのは
自分は大学院を卒業して20年たつのだけれども、同期の連中の身の振り方をみると、終身雇用で会社に勤めあげる人なんて、ほんの一部。 就職した時には、東大の工学部の同期たちは、自分も含めて、いわゆる大手企業、メーカーや金融機関、商社などに就職して行った。 その時は、特にメーカーは世界の中で競争力があったし、日本メーカーの間で転職はできないとも言われていたので、就職した会社に一生勤めるのは普通だ、という認識だったと思う。 つまり、ほとんどの人は、終身雇用のつもりで、就職をしていた。 それが、20年後の今では、最初に就職した会社に勤め続けている人は、同期の中でも1/3も居るかどうか。 就職した時と、その後の展開は、全然違ったものになりました。 まず、90年代、私たちが20代の時に、金融バブルがはじけ、盤石だと思われていた、大手の金融機関がバタバタと倒れて行った。 特に、東大生は長銀に就職した人が多か
昨日の朝に書いたブログがすさまじいアクセス。 「まじめに規則を守って仕事をすればするほど、ダメになっていく日本」 やっぱり、みんな同じように感じてるんですね。 ところで、育休を3年に延ばすそうですね。 仕事を3年も休んだら使い物にならないので、こんな制度は意味ないとか、言われていますが、これはこれで良いと思います。 というのも、日本は育児に限らず、休職を充実させた方が良いと思うから。 アメリカでは、こんな制度はいらないと思う。 日本の「伝統ある」大手企業では、一度会社を辞めてしまったら、もう戻るのは厳しい。 終身雇用も年功序列も崩れてきているのに、一度やめたら、「裏切り者」的な扱い。 あの、やめた人に対する、ウエット感、ジメジメ感は、日本の伝統ある(古い)組織に独特じゃないですかね。 これは、働いている人にも、企業にとっても悪いことばかりではないでしょうか。 何らかの事情で会社をやめても、
ミッドナイトフライトで日本に帰ってきました。モントレーで開催されたIRPS(Internaitonal Reliability Physics Symposium)で竹内研からは3件で発表しました。 学会中は自分の発表以外は、ホテルにこもって、仕事ばかり。 特に、西海岸の夜が日本の昼なので、連日、Skypeでミーティングをしたり、資料を作ったり。とうとう、徹夜になってしまった。 深夜便の中でも仕事して、朝の5時について、帰宅して、また仕事です。 大学の研究者の自分がそこまでしゃかりきに仕事をしなくてもいいのかもしれないけど、何とか、日本の電機やIT産業を復活させたい。 その思いだけで、企業や大学の間の調整をする毎日です。 その中で、どんな組織からも出てくるんですよね、ルールばかり気にする人が。 石橋を叩きに叩いて、最後は叩き割る。 いつも結論は、「やめましょう」になる人が。 私は今まで、大
電機メーカーが苦しくなる中、企業も大学も知恵を出せ、と迫られているのですが。 ・日本企業はハードは強いけれど、ソフトは弱い。 ・ハードを売るための標準化など、売るための仕組みを作ることが弱い。 ・ハードを売るための環境やコラボレーションが下手。 など、言われますね。 何か仕様が決まったものを作るのは上手だけども、何を作ったらいいかを考えるのは苦手。 また、デザインなど、新しいライフスタイルを提案するのもの下手。 なぜそうなってしまったのか。 ある技術者の言葉で、「自分は技術好きでやってきたので、そういうことを考えろと言われても苦手なんだよな」 この言葉は、今の日本のメーカーの苦しさを象徴しているような気がします。 いまや、コンピューターにしろ、テレビにしろ、エレクトロニクスの製品のスペックは十分に高い。 これ以上、スペックを上げても、対価を払ってもらえない。 だから、単にスペックを上げる技
今年度も今日で終わりですね。今年は、5年前に東大で研究室を立ち上げた時に入学してきた畑中君が、無事博士を取って卒業。 そして、3年半にわたって研究室の中心となって活躍してきた、助教の宮地君がパーマネントの職を得て独立します。 学生だけでなく、研究員にとっても、大学の研究室は通過点。 ポスドク問題と言われるように、今や大学でパーマネントの職に就くのは非常に厳しい。 竹内研での活躍を評価されて、激戦を勝ち抜いたのは、本当にうれしいです。 これからは自分の研究室を立ち上げることになるのですが、健闘を祈ります。 さて、半導体メーカーが苦境に陥り、リストラが相次いでいる中で、よく「学生の就職はどうしているのですか?」と聞かれます。 今まで半導体業界の凋落と学生の就職を結びつけて考えたことが、実はありません。 今や、学生には「この会社、業界に就職しろ」と教員が指導する時代ではないです。 完全に学生の意
山中先生のノーベル賞の受賞について、私は専門の内容はわからないので、人となりや、これまでの生き方に興味を持って拝見しました。 山中先生が、日本の大学院を出てからアメリカにポスドクとして移り、日本に帰って来た時に、うつ状態になったというのは、ちょっと、わかる気がします。 山中先生はUCサンフランシスコ、私はスタンフォードに同じような時期にいたんですね。 ベイエリアは気候もいいし、雰囲気も「とにかくやってみろ」と背中を押す。 細かい失敗をとがめるよりも、まずは、やってみろ。 それにしても、日本はどうしちゃったんでしょうね。 環境は悪くないし、人の能力も高いと思うけど、お互いに足を引っ張って、自滅しているような印象。 特に、アウトサイダーに対して、冷たい。 外部から来た人は、組織内部の「しきたり」やプロトコルを知らないのは当たり前。そこを突いて、足を引っ張る人が何と多いことか。 「しつけがなって
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