夏目漱石、永井荷風、小泉八雲……。多くの文人が眠る東京都豊島区の都立雑司ケ谷霊園から、ある文豪の墓がひっそりと姿を消した。 明治後期から昭和初期にかけて活躍した小説家、泉鏡花。管理してきた親族が今後も継承し続けるのは困難と判断し、墓石は撤去された。しかし、新たな安住の地が見つかった。 案内板に修正テープ 5月中旬、雑司ケ谷霊園を訪れると、著名人の墓の位置を示す案内板に、白い修正テープが貼られていた。よく目をこらしてみると、テープの下には「泉鏡花」の文字が透けて見えた。
夏目漱石、永井荷風、小泉八雲……。多くの文人が眠る東京都豊島区の都立雑司ケ谷霊園から、ある文豪の墓がひっそりと姿を消した。 明治後期から昭和初期にかけて活躍した小説家、泉鏡花。管理してきた親族が今後も継承し続けるのは困難と判断し、墓石は撤去された。しかし、新たな安住の地が見つかった。 案内板に修正テープ 5月中旬、雑司ケ谷霊園を訪れると、著名人の墓の位置を示す案内板に、白い修正テープが貼られていた。よく目をこらしてみると、テープの下には「泉鏡花」の文字が透けて見えた。
福岡県糸島市の直売所「伊都菜彩」で漬物を並べる生産者=福岡県糸島市で2024年2月14日午前9時33分、田崎春菜撮影 毎日の食卓を彩ってきた漬物が危機にひんしている。食品衛生法の改正に伴い、6月から漬物の販売に保健所の「営業許可」が必須になるためだ。厳しい衛生基準が求められ、生産者の多くを占める小規模事業者や個人事業者は設備投資をする余力はなく、廃業する事業者が続出する懸念が指摘される。地域ごとに多様な作り手に支えられた漬物文化はどこにいくのか。 「自分が作った漬物が売れればうれしい。生きがいの一つです」。農協が運営する直売所としては日本一の売り上げを誇る「伊都菜彩」(福岡県糸島市)の漬物コーナーには、ぬか漬けや福神漬け、キムチなど農家ら30人近くが出品する100品ほどの漬物が並ぶ。2月の開店前に、手作りの梅干しや大根の漬物を出品していた市内の70代女性はそう充実感を口にした。
ザハ・ハディドらの国立競技場プロジェクトに続き、大阪・関西万博のリングが建設費の高騰によって激しく批判された。国家的な建築が共感を得づらくなったことは、経済的に疲弊する日本の社会状況に起因する。また、20世紀半ばの形態による伝統論争とは違い、政治家が近年の木造ナショナリズムを意識して「伝統構法だ」と説明したことで、「ボルトが使われている」「国産材ではない」といったツッコミにさらされ、現代的な大型木造の意義という問われるべき論点がずれた。 おそらくリングがなければ会場は貧弱になるだろう。ただし、半年で壊すのにはあまりにも高い。ところで、昨年亡くなった磯崎新の水戸芸術館(1990年)の隣に今年開館した伊東豊雄による水戸市民会館は、竹中工務店が開発した耐火集成材を用い、吹き抜けにおいて迫力がある木造の架構が展開する。彼は国立競技場の仕切り直しコンペで、巨大な木造の列柱をもつ案を提出して敗れたが、
大阪モノレール公園東口駅に展示されている「航海(Voyage)」。木の部分にはひび割れや剥離などの傷みが目立つ=大阪府吹田市で2023年8月、山田夢留撮影 「アート作品は人の目に触れてこそ価値がある」。大阪府が所蔵する美術作品105点が地下駐車場に6年間も置かれていた問題が明らかになった直後、吉村洋文知事はこう述べた。劣化や盗難のおそれがあった保管状況の発覚を受け、もっともな発言のようだが、既に鑑賞できる状態にある作品が悲惨な扱いをされていると知ったら、賛成できるだろうか。 地下駐車場にあった105点とは別に、府が「活用」してきたはずの立体作品の一部が、過酷な環境に置かれている。美術館で展示する前提で収集したものなのに駅や屋外で展示され、記者が現地で確認すると、ひび割れや剥離、サビなどで劣化が進んでいた。人為的に汚されたケースさえあったという。専門家からは「あまりにひどい」と酷評する声も上
学長と学校法人による法廷闘争に発展する名古屋芸術大=愛知県北名古屋市で2020年10月30日午後2時22分、川瀬慎一朗撮影 学内への侵入を禁止します――。名古屋芸術大(愛知県北名古屋市)の竹本義明学長(74)は5月、大学を運営する学校法人から、こんな通告とともに職務停止処分を受けた。竹本学長が法人側に処分無効と慰謝料を求める法廷闘争に発展。「僕のヒーローアカデミア」の漫画家・堀越耕平さんやラッパー・呂布カルマさんら著名人を輩出する大学で一体何が起きているのか。 竹本学長が訴えたのは、学校法人「名古屋自由学院」と川村大介理事長ら。竹本学長は22日、学長職務執行停止の無効や慰謝料など損害賠償1100万円の支払いを求め名古屋地裁に提訴した。
突然襲った激震に人々が逃げまどい、もうもうと火炎が立ち上る中、残虐な行為を繰り広げている――。関東大震災の朝鮮人虐殺の様子が描かれたと思われる希少な絵巻物が、発生から100年の節目に東京都新宿区の高麗博物館で公開されている。生々しい絵が、私たちに問いかけるものは何だろう。 絵巻物を見つけたのは専修大元教授で、高麗博物館前館長の新井勝紘さん。日本近代史・自由民権運動を専門としている。国立歴史民俗博物館に助教授として勤めていた当時、関東大震災の展示に関わって以来、朝鮮人虐殺を描いた絵画の収集・研究を続けている。「今になってまさか、こんな資料が見つかるとは」と驚きを語る。 大学を退職後も、ネットオークションで古い資料を探すのが日課だった。一昨年2月、いつものようにパソコンを開くと、「関東大震災絵巻1・2 大正15年 肉筆 淇谷(きこく)」という作品が出品されているのを見つけた。すぐさま参加し、9
大阪府所蔵の現代美術作品105点が、府咲洲(さきしま)庁舎(大阪市住之江区)の地下駐車場で保管されていることがわかった。いずれも彫刻で評価額は計2億円を超える。保管場所には誰でも出入りができ、梱包(こんぽう)されずビニールシートで覆っただけのものもある。劣化と盗難のおそれがあり、関係者からは「粗大ゴミと同様の扱いだ」と憤りの声が上がる。府は苦肉の策だとするが、問題の背景には、作品が時代の変化や行政の施策に翻弄(ほんろう)された経緯があった。 評価額2.2億円 一部はむき出し 駐車場に置かれているのは「大阪府20世紀美術コレクション」(約7900点、評価額計約46億円)の一部。府によると、彫刻作品105点の評価額は計約2億2000万円になる。 そのうち、関西の抽象彫刻をリードした森口宏一(1930~2011年)の作品が約60点を占める。代表作「景の仕組」シリーズなど、鉄やステンレス製で大型の
(文春新書・1100円) 精神医療の試みとして「回帰」する「対話」 2022年に上梓(じょうし)された大著『力と交換様式』の解説書。本書はさしあたり、そのように位置づけることもできる。近年、ジャレド・ダイアモンドやユヴァル・ノア・ハラリらによる人類史がベストセラーになっているが、『力と交換様式』は、その哲学版とみることもできる。ただしダイアモンドやハラリよりもはるかに明晰(めいせき)で、それゆえの難解さがあった。本書は柄谷自身のほか、大澤真幸、渡邊英理らの「解説」によって、平易かつ立体的な理解が可能になっている。 著者は、人類史を交換様式の発展の歴史としてとらえようとする。マルクスは歴史を決定づける要因として「経済的下部構造」、すなわち生産様式を挙げた。柄谷はそれに代わって交換様式を重視し、様式をA~Dの四つに分類する。すなわちA:互酬(ごしゅう)(贈与と返礼)、B:服従と保護(略取と再分
ドイツ各地で、女性もトップレスで泳ぐことを認める公営プールが続出している。こうした変化に独社会が一定の理解を示す背景には、ドイツ独自の「ヌード文化」があるとみられる。 前編 男女の胸を「平等に」 ドイツで“トップレス”容認プールが広がる理由 では、トップレスを認めるよう求めた女性の訴えから、ジェンダーと身体の関係について考えます。 ドイツでは男女混浴のサウナに全裸で入ることは一般的で、自然の中で日光浴をしたり、泳いだりする際にトップレスの女性を見かけることもある。欧州メディアが「ドイツ人はなぜ人前で裸になるのが好きなのか」(英BBC)と取り上げるほどだ。この「裸」に寛容な文化を考えるうえで欠かせないのが、「フライ・ケルパー・クルトゥア(FKK)」という運動だ。ヌーディズムを意味するドイツ語で、直訳すると「自由身体文化」となる。 ドイツの近代文化史に詳しいベルリン自由大学のアルント・バウアー
「表現の不自由展・その後」の展示中止と現代社会、アートを巡る現状について話した浅田彰さん=京都市左京区のアートスペース「浄土複合」で2019年9月6日、森田真潮撮影 米誌タイムが上目遣いの岸田文雄首相の写真を表紙に掲載し、こう紹介した。<岸田首相が長年の平和主義を捨て去り、自国を真の軍事大国にすることを望んでいる>。現実はどうだろうか。 岸田政権は昨年12月、相手国のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力(敵基地攻撃能力)」を明記した国家安全保障戦略など3文書を閣議決定。今後5年間で総額43兆円程度の防衛費を投じる方針を決めた。世界の軍事費と比較すると、ロシアやインドを抜き、米国、中国に次ぐ世界3位になる見込みだ。 1980年代に主著「構造と力」や「逃走論」でニューアカデミズムの旗手とされた批評家で京都芸術大教授(思想史)の浅田彰さん(66)は、岸田首相が推し進める軍備増強路線を「静かな危
「日本近代建築の父」と称されるチェコ出身の米国人建築家、アントニン・レーモンド(1888~1976年)が生前デザインしたとされる複数種類のピアノが近年、中古市場で流通している。その存在情報はインターネットを中心に拡散したとみられるが、実はレーモンドのデザインだと確認できたのは1種類だけで、あとは日本人によるデザインだった可能性が極めて高いことが分かった。製造元のヤマハ(本社・浜松市)は「デザイナーの名誉のためにも本当のことを知ってほしい」としている。 レーモンドは1919年、旧帝国ホテル建築時に師匠のフランク・ロイド・ライトとともに来日し、73年に米国に帰るまで日本を拠点に活躍。近代建築設計と施工法を導入して旧米国大使館(東京都)、東京女子大(同)、群馬音楽センター(群馬県高崎市)、南山大(名古屋市)などを手がけた。
<朝鮮人大虐殺を「事実」と発言する動画を使用する事に懸念があります>。東京都の職員が2022年に送った一通のメール。そこには、関東大震災時に起きた朝鮮人虐殺を認めないような言葉が並んでいた。震災から23年で100年。防災面でその教訓を今に伝える大切さが強調される一方、揺るがぬ事実である虐殺が「なかった」ことにされようとしているのか――。【金志尚、後藤由耶】 関東大震災100年 防災強調の一方で… 「在日コリアンの人たちに関する歴史を、行政として発信したくないという明確な意思を感じました」。現代美術家の飯山由貴さんはそう言うと、深くため息をついた。 飯山さんは過去の記録物などに基づき、社会と個人の関係を掘り下げた映像作品を手掛けている。21年には、戦前に都内の精神科病院に入院していた2人の朝鮮人患者の境遇を描いた「In―Mates」を制作。病院の看護日誌に残されていた2人の様子を、専門家の考
バナナは常にフルーツ売り場の主役だ。安売りの目玉になることも多い=東京都内で2021年1月31日、赤間清広撮影 日本人の国民食と言ってもいいバナナ。常に価格が安定し「物価の優等生」とも呼ばれている。しかし、日本の輸入量の8割近くを占めるフィリピンでは、バナナ農家の困窮が問題になっているという。現地で一体、何が起きているのか。 不平等契約を強いられる生産者 「日本でバナナは一年中、スーパーにあって、しかも安くて当たり前。だが、それを支えるため、生産者は過酷な労働環境を強いられている」。こう語るのは、フィリピンのバナナ生産者を支援するNPO法人APLA(アプラ)の野川未央事務局長だ。 国内ではアプラや、アジア太平洋資料センター(PARC)といった支援団体が中心となり2018年から、生産者の労働環境などに配慮した持続可能な農法で作られたバナナの普及を目指す「エシカルバナナ・キャンペーン」を展開し
大阪で逮捕されて警視庁に移送される日本赤軍最高幹部の重信房子氏=東京駅で2000年11月8日午後5時12分、松田嘉徳撮影 1970年代に中東アラブを拠点に活動を開始し、ハイジャックや大使館占拠事件を起こした日本赤軍。その元最高幹部で、今年5月に懲役20年の刑期を終えて出所した重信房子氏(77)がこのほどインタビューに応じた。当時の若者の政治的反乱とは何だったのか。約100人が死傷したイスラエルのテルアビブ空港乱射事件をどう振り返るのか。重信氏が、獄中での生活から、現在の日本の景色まで、美術評論家の飯田高誉氏(66)を相手に語った。【構成・平林由梨】 <後編は、当時から半世紀がたち、重信氏の目に現在の日本社会はどう映るのかを聞きました> 日本赤軍は、赤軍派だった重信氏がレバノンに革命拠点を求めて出国後、74年に結成した。テルアビブ空港乱射事件(72年)、在マレーシア米大使館を占拠したクアラル
安倍晋三・菅義偉政権下の社会においては、文化芸術の表現活動もさまざまな形で抑圧を受けた。「表現の自由」はどのようなメカニズムによってゆがめられたのか――。京都芸術大大学院教授の小崎哲哉さんが寄稿でその深層に迫った。 萎縮生んだ「表現の不自由展」の補助金不交付 2019年8月に始まったあいちトリエンナーレで、芸術祭内の企画展「表現の不自由展・その後」(以下「不自由展」)が開幕直後に中止に追い込まれた。従軍慰安婦をモチーフとした「平和の少女像」や昭和天皇の写真を燃やす場面を含む映像作品などが問題視され、SNSが炎上し、「電凸」による抗議や脅迫ファクスが殺到したのである。 抗議のほとんどは、作品に込められた多義的なメッセージを読むことなくなされた。実際に展示を観(み)ずに過剰な反応を示した人も多かったと思われる。そして問題は、これにとどまらなかった。 同年9月末に「不自由展」の再開が決定されたが
7月16~18日にエル・おおさかで開催された「表現の不自由展かんさい」=大阪市中央区で2021年7月16日午後2時30分、石川将来撮影 大阪市中央区の府立労働センター(エル・おおさか)で7月16~18日、企画展「表現の不自由展かんさい」が開かれた。物議を醸した「あいちトリエンナーレ2019」での展示作品を集めたものだったが、会場の指定管理者は6月、施設使用許可を「安全管理上の問題がある」と取り消し、府も支持するなど、公による市民の「表現の自由」への制限が問題視された。取材や情報公開請求で、その舞台裏が明らかになった。【石川将来】 実行委が指定管理者の「エル・プロジェクト」に会場使用許可を申請したのは3月6日だ。「表現の不自由展かんさい」とタイトルを明記し、「利用目的」欄には「美術展」と記入した。指定管理者も府条例に基づいて承認書を即日発行した。
「表現の不自由展かんさい」で、「平和の少女像」を見る来場者。作品に込められたさまざまな象徴を説明する文書も掲示された=大阪市中央区で7月16日、梅田麻衣子撮影 2019年のあいちトリエンナーレで、会期の大部分で展示中止に追い込まれた企画展「表現の不自由展・その後」。今年6~7月、その出品作を中心に3都市でそれぞれ展覧会が企画された。東京展や名古屋展は抗議・妨害にあって延期・中止され、大阪展は府立施設の利用許可取り消しを巡る法的な争いを経て予定通り3日間開催。慰安婦問題や天皇制にかかわる作品の展示そのものが危ぶまれる事態の再発に、識者から、日本のアート関係者にも「文化戦争」への構えが必要ではないかとの指摘が出ている。 国内外の現代アートを巡る事情に詳しいジャーナリストで京都芸術大大学院教授の小崎哲哉さんは、昨年末刊行の『現代アートを殺さないために』で、日本であまり一般に知られていない米国の「
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