「もういい。すべてが疲れた。飛び降りよう」。夏の夜の蠍座が、妖艶、かつ、鮮明だった。その刹那、私の身体のなかで、プチっと何かが切れたようだった。意識と魂をつなぐ糸のような何か。凧糸が切れて空を漂うように、ふわふわと私の魂が、意識から遊離した。 Advertisement 私の脳内で、鹿児島市立病院の5階のベランダから飛び降りた。だが、車椅子と一体化した身体が、意識と魂との遊離に抵抗する。両脚がギプスで固定され動けない。飛び降りかけた束の間、私の魂は、我に返った。「いまの自分は、自力で立って、ここから飛び降りることすら、できない」と自虐的に冷笑した。19歳の夏の思い出だ。 石油を運ぶタンクローリーとの交通事故で入院した私。手術直前に、「左脚の血管をつなぐ手術をします。万が一の場合、膝から下に血が流れなくなる。そのときは、切断します」。そんな感じの説明を医師から受けた。そして、手術後に、「手術
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