それは、少年の車の後部座席からの映像である。夢のように妄想のように、僕はあの日の車の後部座席に座って少年の肩越しに風景を見ていた。 少年はやがて、反対車線に飛び出し、対向車に直面する。車は絶望的に逆にハンドルを切り、あのバス停に突っ込んでいく。今まで何度も見て何度もうなされたあの風景を、今僕は少年の車の後部座席から見ていた。今まで見たことの無い風景が繰り広げられていた。僕は、事故を起こした少年の視線にもっとも近いところから、少年が伯母の殺戮の場所に突っ込んでいくその場面を共に見るようになった。 さらには、警察署でうなだれて、少年と一緒に被害者である伯父と「僕」に対面までしているところまでを思い描いた。 それは奇妙な風景である。少年の後部座席に乗っていた僕は、「被害者」でもなく、かといって純粋な「加害者」でもなく、おぼろげで曖昧な存在のままで、「被害者である僕」の前に立っているのだった。跪い
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