かねて妙だと思っているのが、「自分が正しいと信じて疑わない人は困る」とかいう言明だ。というのは、その人が正しいなら、それはそれでいいわけだし、間違っているなら「間違っているのにそれを認められない人」と言えばいい。もちろん、曖昧だということはある。たとえば、火事が起きたのが、自分のせいであるかどうか分からないという場合、これは対外的には、自分のせいではない、と普通は言うわけで、心の中で「もしかして」と思っていても言わない。すると「疑い」はあるわけだが、それは他人には分からないので、「疑わない人」と言う根拠はないのである。 だから、「自分が正しいと信じて疑わない人は困る」というのは、間違った言明であるか、さもなくば発語者自身が間違っていて、正しいことを言う相手に困って発する言明か、のどちらかなのである。