祖父 1989年8月の終わり、漁を終え故郷の港に帰港した。 故郷の港に接岸する時に、陸に向かって投げる縄を「一番綱」と呼んでいた。 一番綱を陸で受け取るのは、必ず祖父だった。 そして、その一番綱を岸壁で待つ祖父に向かって投げるのが僕の役目だった。 しかし、その時は違った。 岸壁に立っているのは祖父ではなく、親戚の伯父だった。 船は接岸を終え、各船員は子供へのおみあげや自分が使っていた布団等の 荷物を陸揚げしていた。 それを迎えに来ている家族が受けとり、リヤカーに積み込む。 荷物の陸揚げを終えた船員は、家族と共に帰宅の途につく。 当時、僕は冷凍長と共に機関長補佐も兼務していたため 全船員が荷揚げを終え下船した後に、全機関を停止し 全ての弁が閉まっているのを確認してから、下船し帰宅する。 機関長が「慶次、あとは任せたぞ」と僕に言い、船から陸に上がった。 僕は「はい」と言って、全ての船員が下船す