罵倒はおろか、真っ当な批評でも傷つく創作家は昔から存在する。そういう人が、悪評が元で創作を断念することも一定の割合で起きている。それはある程度仕方ないが、放置してよいものでもない。旧来のメディアでは、編集者なりマネージャーなりが防波堤になっていた。 江戸川乱歩の場合、編集者の役割は防波 堤などというレベルではなく、編集者がおだてて褒めちぎらないと筆が進まない人だったようだ。初期の代表作「パノラマ島奇譚」は雑誌「新青年」に連載した が、途中で一時休載している。担当編集者は何と横溝正史で「おだてが足りなかった」と述懐しているそうだ。 乱歩は自己評価の低い人だった。本格推 理ものに強い愛着があって、初期のうちは創作意欲も高かったが、最終的に本格作品はあまり残さず、怪奇・猟奇系か活劇系の作品が多い。結局それは、後者の 方が世評が高かったためで、乱歩は自分の本格ものにかなり早いうちから自信を失ってい