もし、あなたがタイムマシーンに乗って時間を旅する旅行者ならば、第二次世界終結目前の1945年5月5日、オーストリアのチロル地方にあるイッター城で奇妙な戦闘を目にすることが出来るだろう。この日、この時、こじんまりした城に籠る小さな混成部隊は、まるでフィクションの中の出来事にしか思えないメンバーで構成されていた。この城を陥落させるため、激しい攻撃を仕掛ける武装親衛隊と戦っていたのはアメリカ軍兵士とドイツ国防軍兵士、武装親衛隊将校、オーストリア人レジスタンス、そして本来は救出されるべき対象者であったフランス政府の要人たちだ。 ヒトラーは占領した国々の要人を連合国と交渉する際のカードとして使えるのではないかと考え、逮捕し名誉囚人として拘禁していた。本書はその名誉囚人を救出するために行われた「奇跡」の作戦、イッター城の戦いを描いたノンフィクションだ。なぜ奇跡なのか。それはつい昨日まで敵同士であったア