大航海時代(もっとも鄭和艦隊に比べれば小航海に過ぎない)が、実質的に始まった16世紀前半のヨーロッパには、個性豊かな君主たちがひしめきあっていた。ヘンリー8世、カール5世、フランソワ1世の三つ巴の争い、それにスレイマン大帝やマルティン・ルター、メディチ家のレオ10世が絡むのだ。役者を一瞥しただけでも面白くないわけがない。ところが、この豪華絢爛たる顔ぶれの中で、何故かフランソワ1世について書かれたものは少なかった。そのミッシングリンクを埋める傑作が現れた。 本書は3部構成を採っている。プロローグは、誕生から即位までの21年。母親ルイーズと姉(「エプタメロン」を書いたマルグリット)に溺愛され甘やかされた若者。こうして育てられたフランソワが「どうして自分の偉大さを誇大視せずにいられるだろうか」「この若者の少年期が、のちにフランスの運命に重くのしかかることになるのだ」。 次が、即位からカンブレーの
