論争が難しい時代である。コラムニストの石原壮一郎氏が考察した。 * * * その昔、井上陽水の『傘がない』という歌が大ヒットしました。発売は1972(昭和47)年、陽水が23歳のときです。新聞は都会で若者の自殺が増えていると報じているが、それよりも自分には雨の中を彼女に会いに行くための傘がないことのほうが問題だ――。時代は学生運動の嵐が吹き荒れた直後。若者の虚無感と焦りを表現した切ない歌です。 当時、この歌は世の「良識ある大人」から激しく批判されました。ニュースで報じられる社会問題よりも彼女に会いたい気持ちのほうが大事だと歌うなんて、なんて嘆かわしい、なんてケシカラン、だから今どきの若者は……といった調子でした。今振り返れば、いかに的外れで、いかに一面的な批判かがよくわかります。 先日、野沢直子の悩み相談への回答が、いわゆる「知識人」のみなさんから、寄ってたかって批判されました。その光景を
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