『街場の現代思想』(内田樹著・文春文庫)より。 (「離婚について」という章の一部です) 【うちのゼミの学生の話。新しいゲームが出たので、3日くらい家にこもってゲームに耽っていた彼女はゲームをクリアしたあと、寝不足のままぼんやりと久しぶりに学校に出てきて、友だちと話しているときに、その子に向かって「言ってはいけないこと」を言ってしまった。そのとき、とっさに右手が「リセットボタン」のありかを探っていたそうである。 味わいの深い話である。 この逸話の興味は、ゲームのやりすぎでリアルな世界にもリセットボタンがあると思ってしまった幻覚にではなく、「リセットボタンがある」と無意識に思っていたせいで、友だちに向かって不用意な発言をすることを自制できなかったということの方にある。つまり彼女はリセットできることを前提にしたとき、無意識に「言ってはならないこと」を選択的に口にしたのである。 あまり知られていな