看護師から「抱っこしてもいいですよ」と促されて両腕で長女を抱きしめると、とても温かかった。生後わずか2カ月の長女の心臓には重い疾患があった。出産翌日から面会はできず、小さな体に負担をかけてはいけないと抱っこさえ医師から止められていた。 1991年8月、東京都内の病院。元俳優の高部知子さんは手術室前にいた。23歳の母は、我が子の重さを感じ喜びをかみしめた。 そう思えたのも一瞬だった。とてつもない恐怖感に襲われた。「手術が終わった後にこの手に抱くのは娘の遺体かもしれない。ぬくもりのある体を抱いているのはこれが最後なのかもしれない」。医師からは難しい手術だと聞かされており、娘はまさに生きるか死ぬかという境界に立たされていた。
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