次期日銀総裁に指名された黒田東彦(はるひこ)アジア開発銀行(ADB)総裁は衆院議院運営委員会で、「2年ぐらいで2%の物価上昇率目標を達成することを念頭に大胆に金融緩和していく」と所信を述べた。そこで気になるのは、物価上昇を実現する手段である。 手っ取り早いやり方は何か。多くの読者は「円安」と思われるかもしれないが、難点がある。円安は確かに輸入原材料のコストを上昇させ、食料品から工業製品に至るまで、値上げ要因になる。現に最近の円安傾向を受けて、一部の業種の企業が値上げを発表している。 しかし、需要が細るデフレの下で企業がとる典型的なやり方は、値段を据え置く代わりに製品1個当たりの分量を減らす「カッティング・エッジ(端切り)」である。これだと小売価格は同じに見えるが、消費者の負担が実質的に増える。あるいは、値上げは無理だとあきらめた企業は賃金や雇用を減らしたり、下請けなど外注先に負担を強い