バッターボックスにはゴメス。この際、君たちが思い浮かぶどのゴメスかなんてことはどうでもいい。そのゴメスは花粉症に苦しんでいた。目は痒くてしょうがないし、鼻はどん詰まりだ。右のバッターボックスにゴメス。花粉症のゴメス。ただ、ゴメスだって生まれてからずっと花粉症だったわけじゃない。ゴメスは少年時代を思い出す。かれは森で育った。ティンバーカントリー、そんな言葉がよく似合う森、森、森、森の中にゴメス。父親は馬鹿でかいチェーンソーで大木をぶった切った。響き渡る轟音、飛び散る木粉、ビッグ・ダディ。けれどゴメスには大木をぶった切るより、小さな木の棒でボールを遠くに飛ばすことに才能があった。紛れも無い才能だった。君らが知っているどのゴメスよりもだ。ゴメスは野球選手になった。野球をして、金をもらう。ゴメスにはなんの疑問もなかった。パパは喜んだ。ママも誇りに思うと言った。姉はカンザスで小さなドライブインの従業