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ブックマーク / www.webchikuma.jp (32)

  • ウクライナ戦争が問う我々の人間性|ちくま新書|小泉 悠|webちくま

    ちくま新書『ウクライナ戦争』の著者・小泉悠氏が、戦争について、人間について、悪について、子供たちについて、その質を率直に語った貴重なエッセイ。PR誌「ちくま」1月号より緊急転載いたします。 戦争という現象にはいろいろな顔がある。直接の戦争経験を持たず、軍事オタクとして生きてきた筆者が戦争と聞いてまず思い浮かべてきたのは、「戦闘」だった。巨大な軍隊同士が火力や機動力を発揮して敵の殲滅を目指す暴力闘争。これは間違いなく戦争の一つの顔ではある。 しかし、12年前に子供を持ってから、戦争の別の側面を意識するようになった。子供という、この弱くて壊れやすいものを抱えながら生きていくということは、平時の社会においてもなかなかに緊張を強いられるものがある。すぐに熱を出す、とんでもないことで怪我をする、迷子になる。そういう子供との暮らしに、爆弾が降ってくるのが戦争である。あるいは、子供にべさせるものがな

    ウクライナ戦争が問う我々の人間性|ちくま新書|小泉 悠|webちくま
    maturi
    maturi 2022/12/28
  • 「社会政策」としての殺戮|『ブラッドランド』刊行記念|大木 毅|webちくま

    ウクライナ、ポーランド、ベラルーシ、バルト三国。西欧諸国とロシアに挟まれたこの地で起きた人類史上最悪のジェノサイド。旧ソ連体制下で歪曲・隠蔽されてきた事実を掘り起こし、殺戮の全貌を初めて明らかにした歴史ノンフィクションがついに学芸文庫に入った。今日の世界で『ブラッドランド』をどう読むべきか? 文庫化を機に、岩波新書『独ソ戦』の著者である現代史家・大木毅氏に特別寄稿をいただいた。 早いもので、もう四十年近く前になる。筆者は、大学院の演習で、今日に至るまで大きな影響を受けることになった論文に出会った。シカゴ大学教授(現同大名誉教授)だったミヒャエル・ガイヤーによる「社会政策としての戦争」(Michael Geyer, Krieg als Gesellschaftspolitik. Anmerkungen zu neueren Arbeiten über das Dritte Reich im

    「社会政策」としての殺戮|『ブラッドランド』刊行記念|大木 毅|webちくま
    maturi
    maturi 2022/11/11
    ホロドモール |たとえるなら(たとえるな) 国家によるレイプ
  • 教科書にして教科書以上|ちくま学芸文庫|大澤 真幸|webちくま

    PR誌「ちくま」7月号より、大澤真幸氏による書評を公開します。『ナショナリズムとは何か』は、ナショナリズム論の大家による、学芸文庫訳し下ろしの入門書です。大澤氏が書を「教科書にして教科書以上」と評する理由とは? ぜひ、ご一読ください。 書はナショナリズム論の最高の教科書である。と同時に、教科書以上の書物でもある。 ナショナリズムとは、自分たちが「ネイション」を構成していると自認している集団に関して、その自治と統一とアイデンティティの確立・維持をめざすイデオロギー運動である。ではネイションとは何か。ネイションは次の条件を満たす共同体である。①郷土と認知された所に住んでいる。②誰もが知る神話、③共有された歴史、④独自の公共文化、⑤すべての成員に妥当する風習をもつ。そして⑥特定の名前で呼ばれている。 冒頭で書は最高の教科書だと述べた。その理由は、書の中で、主要なすべてのパラダイムや理論が

    教科書にして教科書以上|ちくま学芸文庫|大澤 真幸|webちくま
    maturi
    maturi 2022/04/08
    エトニーとは、①郷土とつながっていて、②祖先についての誰もが知る神話、③共有された記憶、④若干の共有文化をもち、⑤(少なくとも)エリートの間に連帯感があり、そして⑥特定の名前で呼ばれている共同体であ
  • 〈未来〉は俺等の手の中|単行本|木澤 佐登志|webちくま

    意味や価値のわからない仕事を再生産し続ける「制約事項」を爆破し、「当のイノベーション」に向かって考える自由を取り戻す――気鋭のSF作家であり、ITコンサルタントである著者が贈る理論と実践の書『未来は予測するものではなく創造するものである』を文筆家の木澤佐登志さんに読み解いていただきました。 〈未来〉は失われている。それも決定的に。「ぼくたちは空飛ぶ車がほしかったのに、手に入ったのは一四〇文字だった」。書の中で樋口が引いている、ピーター・ティールの言葉。一九六〇年代には星間飛行やタイムトラベルといった〈未来〉のヴィジョンが真剣に検討され、それは遠からず到来するだろうと考えられていた。だが今や、そうした〈未来〉のヴィジョンは寂れたショッピングモールのセール品の山に埋もれ、それを顧みる者はどこにもいない。代わりに、テイラーシステムに組み込まれた〈未来〉は、制約事項によって切り詰められたソフト

    〈未来〉は俺等の手の中|単行本|木澤 佐登志|webちくま
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    maturi 2022/01/27
  • 日本がダメでも自分がよければそれでいい…のか? データが明らかにする若者世代の低い「自己効力感」|ちくまプリマー新書|本田 由紀|webちくま(1/4)

    好評発売中の田由紀『「日」ってどんな国?』(ちくまプリマー新書)は、「家族」「ジェンダー」「学校」「友人」「経済・仕事」「政治・社会運動」といった日社会のさまざまな面を世界各国とデータで徹底比較する一冊。「あたりまえ」だと思い込んでいたことが、実は「変」だったことに気付かされます。この国のグダグダな現状に慣れ切ってしまった私たちに「幸せ?」と問いかける第七章より、文の一部を公開します! 「日がだめでも自分がOKならいいじゃん」 さーて、ここまでの各章では、総じて気が滅入る日社会の現状を、様々なデータで示してきました。これに対して、「そんなの自分には関係ねえ!」と感じる人もいるでしょう。「自分はけっこううまくやっていけてるし、日とか意識したことないし」とか、「自分がうまくいかないのは自分のせいだし」とか、「他の国と比べてどうとか、そもそも他の国なんて日語通じないしこわいし行く

    日本がダメでも自分がよければそれでいい…のか? データが明らかにする若者世代の低い「自己効力感」|ちくまプリマー新書|本田 由紀|webちくま(1/4)
  • 石ノ森章太郎とSF|ちくま文庫|すがや みつる|webちくま

    8月刊行のちくま文庫『石ノ森章太郎コレクション SF編』より、すがやみつる先生の解説を転載いたします。文庫編には、収録しきれなかった〈完全版〉をウェブ限定で公開します。 #001 最初に断っておくが、筆者は高校生のときから石ノ森章太郎のもとに通い、20歳で石森プロに所属、21歳のとき『仮面ライダー』のコミカライズでマンガ家デビューを果たした経歴の持ち主である。『仮面ライダー』を描きはじめた頃は、ネーム、下絵、ペン入れ、完成の各段階で石ノ森の監修を受け、マンガの描き方を手取り足取り教えてもらっていた。石ノ森が筆者のことを「弟子」と称してくれたのはそのためだ。 その後、筆者は独立し、オリジナル作品を描くマンガ家になったが、50歳を過ぎて大学と大学院で学び、研究というものに手を染めることになった。来、文庫の解説というものは、研究者の視点から執筆するのがふさわしいのだが、筆者自身の経歴から、公

    石ノ森章太郎とSF|ちくま文庫|すがや みつる|webちくま
  • ホロコーストは近代の産物か|ちくま学芸文庫|田野 大輔|webちくま

    ホロコーストを近代社会の質に深く根ざしたものとして捉えたバウマンの主著『近代とホロコースト』。書の内容が、近年の実証研究の進展によってどのように克服され、また相対化されているか、ドイツ現代史がご専門の田野大輔さんが評してくださいました。(PR誌『ちくま』5月号より転載) ホロコーストはなぜ起こったのか。600万人にもおよぶユダヤ人の大量殺戮はどうして可能になったのか。この問題に社会学の立場から取り組んだのが、ジグムント・バウマンの手になる書『近代とホロコースト』である。彼の回答はきわめて明確である。ホロコーストは近代文明の所産であり、近代官僚制の働きがなければ生じえなかったというのだ。「『最終的解決』はいかなる段階においても、効率的・効果的目的遂行という合理主義的行動とは衝突しなかった。逆に、『最終的解決』は当の合理主義精神から生じ、その精神と目的に忠実な官僚制度によって完成された

    ホロコーストは近代の産物か|ちくま学芸文庫|田野 大輔|webちくま
    maturi
    maturi 2021/06/04
    相対的に、日本軍の虐殺は田野氏の指摘するドイツ以上に場当たり的で非官僚的であった(捨てる/燃やすまでもなく文書がそもそも作製されていない)
  • 【悲劇】低収入男は女にモテない? 負けが負けを呼ぶ〈図式〉のウラ|ちくま新書|山田 昌弘|webちくま

    11月刊、山田昌弘『モテる構造』の「はじめに」を公開いたします。なぜアイツはモテるのに、俺はモテないのか? 女性がジーンズをはいてもおかしくないのに、男性がスカートをはくと奇異な目で見られるのはなぜだろう。オリンピックの種目に、女性のレスリングやマラソン競技はあるのに、男性のシンクロナイズド・スイミングはない。女子大や女性専用車両はあるのに、男子のみの大学や男性専用車両もない。 私たちは、日常生活のあちこちで、女性にはOKだが、男性はダメという現象に出合う。だけれども、それを差別と言ったり、改善すべきという意見を目にすることはめったにない。 男の生脚は見たくない 女性活躍のかけごえで、「男性に限られていることを女性にも可能にしろ」という意見は、当然のこととして受け止められるようになった。パンツスーツで働く女性も多くなり、男性のみ入学可の大学はなくなった。ほとんどのスポーツでは女子種目も行わ

    【悲劇】低収入男は女にモテない? 負けが負けを呼ぶ〈図式〉のウラ|ちくま新書|山田 昌弘|webちくま
    maturi
    maturi 2021/04/09
    2016
  • 検証・コロナvs政治海堂尊×山岡淳一郎(後編) ||海堂 尊,山岡 淳一郎|webちくま(1/4)

    2020年4月「緊急事態」が宣言される中リアルタイムで執筆され、急ぎ出版された2冊の。無為無策の政治風景と医療現場の緊迫を克明に描き出した小説『コロナ黙示録』海堂尊著と、感染症という科学的事象に右往左往する国の有り様を追い医療を蝕む闇を衝いたノンフィクション『ドキュメント感染症利権』山岡淳一郎著だ。両作品の著者が縦横無尽に問う「この国はなぜコロナと闘えないのか」―― 〔前編から続く〕 ▼逼迫・奮闘する医療現場のリアルが『コロナ黙示録』にある 山岡淳一郎    今回の私のでは、権力が作用している構造を、全体像を描いたので、今は地面に近い視点で、人がどういうふうに動くのかっていう所に注目して現場を訪ねています。海堂さんの『コロナ黙示録』に出てくる白鳥みたいな役人はなかなか現実にはいないんだけれども(笑)、速水だとか、あと研修医から臨床医になった大曽根みたいな、ああいうタイプは結構現場にいる

    検証・コロナvs政治海堂尊×山岡淳一郎(後編) ||海堂 尊,山岡 淳一郎|webちくま(1/4)
    maturi
    maturi 2020/12/27
    うつろな状態の中で、自分の思いつきでやりたいこと、あるいは自分が心地よいかけ声みたいなものに対して、ふらふらっと政治の力を利用していく。そのくらい劣化した官邸レベルの政治しかできないところまで
  • 検証・コロナvs政治 海堂尊×山岡淳一郎(前編)||海堂 尊,山岡 淳一郎|webちくま(1/4)

    2020年4月、「緊急事態」が宣言される中リアルタイムで執筆され、急ぎ出版された2冊の。無為無策の政治風景と医療現場の緊迫を克明に描き出した小説『コロナ黙示録』海堂尊著と、感染症という科学的事象に右往左往する国の有り様を追い医療を蝕む闇を衝いたノンフィクション『ドキュメント感染症利権』山岡淳一郎著だ。両作品の著者が縦横無尽に問う「この国はなぜコロナと闘えないのか」―― ▼「緊急事態」下に書かれた2冊 海堂尊    ご著書の『ドキュメント感染症利権』(ちくま新書、2020年8月10日刊)を読んで当に腑に落ちるところがたくさんあり、とにかくこれは現場の医師に広めなきゃいけない必読書だと思いまして、色々お話を伺いたく思っています。 山岡淳一郎    ありがとうございます。私も『コロナ黙示録』(宝島社、2020年7月10日刊)、一気に読ませていただきました。非常に面白かったです。とにかく出てく

    検証・コロナvs政治 海堂尊×山岡淳一郎(前編)||海堂 尊,山岡 淳一郎|webちくま(1/4)
    maturi
    maturi 2020/12/27
    中国が巨大な突貫工事をやった、さすが全体主義国家みたいな伝え方しかしていなかったと思うんですが、医学の大御所の言うとおりにしたんだっていう、大事なことが伝えられていません。日本にない部分ですよ。
  • トダヤマへのストレンジラヴ|単行本|重田 園江|webちくま

    教養とは何か、なぜ大切なのかを真正面から問い、「世の中をよくするという仕事は、教養への道を歩み続ける人々にしかできない」と熱く啓蒙しまくる戸田山和久『教養の書 』。これぞ今の時代の「学問のすすめ」だ、と(一部で)話題沸騰の書に、重田園江さんが魂の書評を寄せてくださいました。『ちくま』2020年3月号に掲載されたテキストの「webちくま用拡張版」、どうぞお楽しみください! 書は、筑摩書房のPR誌『ちくま』に2017年から2018年まで連載された原稿に、大幅加筆した著書である。初出時のシリーズタイトルは「とびだせ教養」、続編は「ひっこめ教養」で、私はこのタイトルが気に入っていた。というのも、これは少年ならぬトダヤマ中年が、教養とは何かを探り(とびだせ!)、そしてそれに疑念を抱き(ひっこめ!)、最後に教養人の生き方を「自己のテクノロジー(魂への配慮)」として示す物語だからだ。そう、これは「教

    トダヤマへのストレンジラヴ|単行本|重田 園江|webちくま
    maturi
    maturi 2020/04/12
    原題はSorry We Missed You.配達先が不在のときに使う決まり文句、「お届けにあがりましたがご不在でした」。なぜ「家族を想うとき」なのか、実は社会全体に厳しく問いかけつづけてきたケン・ローチを愚弄しているレベル。
  • 【特別掲載】大疫病の年に|特別掲載・大疫病の年に|マイク・デイヴィス,重田 園江|webちくま(1/2)

    2019年末、中国・武漢に発したとされる新型コロナウィルスは、第二次大戦後最悪ともいわれるペースで世界各地に感染を広げています。なぜ現代世界は新種のウィルスにかくも脆弱になってしまったのか。世界でいま何が起こっていて、これから何が私たちを待ち受けているのか。『感染爆発』などの著作があるアメリカの社会学者マイク・デイヴィスがその核心に肉薄した最重要論考を、Jacobin誌の許可を得て特別に掲載します。 コロナウィルスが世界を駆けめぐっている。われわれの治療能力は言うに及ばず、検査能力すら追いつかないスピードで。いつか出現すると危惧されてきたこの怪物ウィルスは、とうとうすぐそこ、玄関口までやってきた[i]。このようなバイオ危機に対してグローバル資主義は全く無力なので、国際的規模のきちんとした公的保健インフラを要求していかなければならない。 コロナウィルスは古い映画のようだ。1994年のリチャ

    【特別掲載】大疫病の年に|特別掲載・大疫病の年に|マイク・デイヴィス,重田 園江|webちくま(1/2)
  • 最終回なんのために生きているのか?と問うとき|人生につける薬|千野 帽子|webちくま

    人生は不意だらけ 最終回です。 前回わかったことは、ストーリーを理解しているとき、自分を含む登場人物(agents=動作主)の「目的」を僕らは(誤解であれなんであれ)ある程度把握している、ということでした。 生きていると、不意な状況ばかりです。 仏教で言う〈一切皆苦〉の〈苦〉という字を見ると、なんとなく苦痛や苦悩といったハードな状況を考えてしまいます。だから、「いや、苦ばかりではないよ」と反論したくなります。 けれど、苦と漢訳されたパーリ語dukkhaは「不意」「思いどおりにいかないこと」全般をさすものでした。仏教は致命的な苦痛や苦悩と、ライトな不平不満や不快とを、質面では分け隔てしないようです。 それでも「目的」「意味」を求めてしまう 苦(不意な状況)が深刻だったり、長期化したりすると、 「なぜ生きてるんだろう?」「どうしてこんなに苦しくて悩んでるんだろう?」 と問うてしまうよ

    最終回なんのために生きているのか?と問うとき|人生につける薬|千野 帽子|webちくま
    maturi
    maturi 2019/02/08
    ””「原因」とは、客観的に「これ」と確定できるものではなく、人間がストーリー形式を使って世界を解釈するときに、解釈者の都合で頼りにする概念である、ということを、18世紀にヒュームは指摘しました”
  • 【第98回】世界遺産登録を前にキリシタン論争が熱い|世の中ラボ|斎藤 美奈子|webちくま

    ただいま話題のあのニュースや流行の出来事を、毎月3冊の関連を選んで論じます。書評として読んでもよし、時評として読んでもよし。「を読まないと分からないことがある」ことがよく分かる、目から鱗がはらはら落ちます。PR誌「ちくま」2018年6月号より転載。 二〇一八年のユネスコ世界文化遺産に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が登録される見込みとなった。それ以前に日政府は「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」として登録を目指していたが、一六年、イコモス(国際記念物遺跡会議)に「禁教の歴史の特殊性に焦点を当てるべきだ」と指摘され、推薦書を取り下げた経緯がある。今回は禁教期と無関係な二資産を除外し、「潜伏キリシタン」に特化させることで登録に漕ぎ着けた恰好だ。 「潜伏」といえば美しいけど、要は宗教弾圧、「負の歴史」ですからね。イコモスに指摘されるまで、そのへんをゴマ化して登録を目指したのが、い

    【第98回】世界遺産登録を前にキリシタン論争が熱い|世の中ラボ|斎藤 美奈子|webちくま
    maturi
    maturi 2019/02/01
    事実は価値判断抜きには存在しない
  • 【第101回】「美しい顔」問題をどう考えるか|世の中ラボ|斎藤 美奈子|webちくま

    ただいま話題のあのニュースや流行の出来事を、毎月3冊の関連を選んで論じます。書評として読んでもよし、時評として読んでもよし。「を読まないと分からないことがある」ことがよく分かる、目から鱗がはらはら落ちます。PR誌「ちくま」2018年9月号より転載。 今期芥川賞の候補になるも落選し、騒動も下火になったところで、あえて考えてみたい。「類似表現」が問題となった群像新人賞受賞作、北条裕子「美しい顔」の件である。 この一件が発覚したのは、「美しい顔」が芥川賞候補作になった後の報道によってだった。すなわち「芥川賞候補作に参考文献つけず、掲載誌おわびへ」(読売新聞・6月29日)、「芥川賞候補作、参考文献示さず類似表現 掲載誌でおわび」(朝日新聞・6月29日)などの記事である。記事は「群像」の版元である講談社が作品掲載誌に参考文献を明記しなかったこと、七月発売の「群像」でおわびを掲載することなどを伝え

    【第101回】「美しい顔」問題をどう考えるか|世の中ラボ|斎藤 美奈子|webちくま
    maturi
    maturi 2019/02/01
    震災のフィクション化 消費
  • 【第94回】明治150年にあたり、「司馬史観」を検証する|世の中ラボ|斎藤 美奈子|webちくま

    ただいま話題のあのニュースや流行の出来事を、毎月3冊の関連を選んで論じます。書評として読んでもよし、時評として読んでもよし。「を読まないと分からないことがある」ことがよく分かる、目から鱗がはらはら落ちます。PR誌「ちくま」2018年2月号より転載。 今年、二〇一八年は「明治一五〇年」である。官邸のポータルサイトには〈「明治150年」をきっかけとして、明治以降の歩みを次世代に遺すことや、明治の精神に学び、日の強みを再認識することは、大変重要なことです〉などとある。悪い冗談かよ。敗戦で断絶された歴史を無視し、主権在君の帝国主義時代に戻れといわんばかりだ。この機に乗じて『文春MOOK明治150年 文藝春秋でしか読めない幕末維新』『別冊正論30 明治維新150年――先人の智慧と気概』といったムックも、すでに発売されている。この傾向が今年いっぱい続くのだろうか。 ところで、右のようなムックも含

    【第94回】明治150年にあたり、「司馬史観」を検証する|世の中ラボ|斎藤 美奈子|webちくま
    maturi
    maturi 2019/02/01
    司馬史観の最大の特徴は「明るい明治」と「暗い昭和」という二項対立。さらにはその分岐点は日露戦争だとして、日露戦争までの四〇年は上り坂、日露戦争から後の四〇年は下り坂としている点
  • 【第105回】百田尚樹『日本国紀』をどう読むか|世の中ラボ|斎藤 美奈子|webちくま

    ただいま話題のあのニュースや流行の出来事を、毎月3冊の関連を選んで論じます。書評として読んでもよし、時評として読んでもよし。「を読まないと分からないことがある」ことがよく分かる、目から鱗がはらはら落ちます。PR誌「ちくま」2019年1月号より転載。 11月に発売された百田尚樹『日国紀』が話題である。 〈当代一のストーリーテラーが、平成最後の年に送り出す、日通史の決定版!〉という麗々しいキャッチコピー。おまけに書店という書店には、もっか、このが山積みだ。 となれば、読むっきゃないでしょう。なにしろ著者は安倍晋三応援団にして、『永遠の0』(2006年)や『海賊とよばれた男』(2012年)で知られるベストセラー作家。なおかつ「沖縄の二つの新聞社は潰さなあかん」(2015年6月25日。自民党の勉強会「文化芸術懇話会」での発言)とか、「朝日新聞は日の敵だが、そんな売国新聞を支えている朝日

    【第105回】百田尚樹『日本国紀』をどう読むか|世の中ラボ|斎藤 美奈子|webちくま
    maturi
    maturi 2019/02/01
    ”通常の史実に「日本スゴい」という著者の情緒的な感想がときどき挟み込まれるだけ。同じ自讃史観系の通史なら、二〇年近く前に出た西尾幹二『国民の歴史』のほうがおもしろかったぞ。”
  • 最終回 人に罪悪感を抱かせようとするシステムからはすぐに逃げろ|それ、ほんとの話? 人生につける薬Ⅱ|webちくま

    きょうがこの連載の最終回です。 第9回で取り上げた「『黒子のバスケ』連続脅迫事件」の渡邊博史さんの件は、当人の生きづらさの出発点として親からの虐待があった、というふうな理解をされやすいかもしれません。 渡邊さんの著書『生ける屍の結末』(創出版)によれば、親からの被虐待の過去を持つ人に取材した高橋和巳医師の『消えたい 虐待された人の生き方から知る心の幸せ』(現在はちくま文庫)を読んだのが、渡邊さんの自己認識が変化したきっかけです。だから余計に、親のせいで生きづらくなったように思いやすい。 しかし、『生ける屍の結末』を虚心に読むと、親からの虐待や過干渉だけでなく、同級生からの苛烈な虐待も記録されています。親だけではなく、同年代の仲間も、少年期の彼に影響を及ぼしたのです。 それからもうひとつ、これはいまの日では言いづらいこととされていますが、人間の気質にはそもそも、遺伝的要因も大きく作用します

    最終回 人に罪悪感を抱かせようとするシステムからはすぐに逃げろ|それ、ほんとの話? 人生につける薬Ⅱ|webちくま
    maturi
    maturi 2019/01/01
    「罪を犯した人は自分が幸せを感じなくなっている。自分が幸せを感じられなくて他人の幸せを願えるだろうか。自分が幸せを感じることができてはじめて償いにとりかかれる」(大意)
  • 第11回 人は話の「本題」「本筋」を自動的に決めている|それ、ほんとの話? 人生につける薬Ⅱ|webちくま

    『人はなぜ物語を求めるのか』に続く、千野帽子さんの連載第11回! 物語における筋とか脇道って何でしょう?? そもそも、この連載の筋って? ここまで欠かさず読んでこられた読者は(いったい何人いらっしゃるのか、甚だ不安ですが)、こういう疑問をお持ちかもしれません。 「そもそも、この連載の題、筋って、なんなの?」 はい、書いている僕もそれ、よく不安に思います。 第1回からもう一度ざっと読み直すと、まず 「どういう話がウケるか?」 という問から始まり、 「珍しいできごとや、けしからぬできごとが、報告価値を持つ」 と答えたはいいけれど、 すぐに 「そういう派手なできごとがあればいいというわけでもない(とくにフィクションでは)」 と留保し、 「なぜなら人はフィクションには必然性を求めるので、小説が事実と同じくらい奇であることを好まない」 と補足し、 「フィクションに求めるような必然性を現実の人

    第11回 人は話の「本題」「本筋」を自動的に決めている|それ、ほんとの話? 人生につける薬Ⅱ|webちくま
    maturi
    maturi 2018/12/16
    僕らが人の話を聞きながら、小説を読みながら、殆どそれと自覚せずに「本筋」を精妙に取り出しているのも、「たまたま」うまくいってきただけで、いつその予測がはずれるか、知れたものではない、と感じます。
  • 第10回 わかったときには、「意味のあるストーリー」の形にしている|それ、ほんとの話? 人生につける薬Ⅱ|webちくま

    『人はなぜ物語を求めるのか』に続く、千野帽子さんの連載第10回! 自分の行動を説明するにも一般論が入ってくる? 自分の行動の動機説明が、〈自分の当の心象風景からズレている〉ことがある 前回紹介した、『黒子のバスケ』連続脅迫事件の渡邊博史被告(当時)は、犯行にあたって自分を突き動かしていた動機を、公判の冒頭意見陳述でつぎのように主張しました。 〈自分が「手に入れたくて手に入れられなかったもの」を全て持っている「黒子のバスケ」の作者の藤巻忠俊氏のことを知り、人生があまりにも違い過ぎると愕然とし、この巨大な相手にせめてもの一太刀を浴びせてやりたいと思ってしまったのです。自分はこの事件の犯罪類型を「人生格差犯罪」と命名していました〉 (『生ける屍の結末 「黒子のバスケ」脅迫事件の全真相』創出版、159頁) 冒頭意見陳述はウェブ上に公開され、大きな反響を呼びました。その反響を印刷したものを弁護士か

    第10回 わかったときには、「意味のあるストーリー」の形にしている|それ、ほんとの話? 人生につける薬Ⅱ|webちくま
    maturi
    maturi 2018/12/16
    "「わかる」と思う気持ちは感情以外のなにものでもない"感情は「私のもの」である以前に「自然現象」である"理解の背後に控える「一般論」