河野龍太郎さんの最新刊『日本経済の死角 ──収奪的システムを解き明かす』(ちくま新書)が2025年2月に刊行されました。生産性と実質賃金への誤解をはじめ、労働法制、企業統治など、7つの「死角」から日本経済の長期停滞を分析した内容が話題を呼んでいます。元日本銀行総裁の白川方明さんは本書をどう読んだのか。白川さんによる書評を掲載します。(PR誌「ちくま」2025年3月号より転載) 一九九〇年代初頭以降の日本の成長率の低下の原因と取るべき政策対応を巡っては、多くの議論が行われてきた。最初の頃は、成長率の低下は一時的であり、やがて元の成長軌道に戻るとの楽観論が支配的だった。バブル崩壊の影響は軽視されていた。次に登場したのはバブル崩壊に伴う不良債権問題が景気回復の足を引っ張っているという議論だった。バブル崩壊の影響は次第に深刻化していき、金融危機は一九九七年から九八年にかけて頂点に達した。金融機関の
