ブックマーク / saebou.hatenablog.com (12)

  • ユーモアと悲惨〜『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(ネタバレあり) - Commentarius Saevus

    ショーン・ベイカー監督の新作『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』を見てきた。 主人公は6歳の少女ムーニー(ブルックリン・プリンス)である。ムーニーはフロリダでボビー(ウィレム・デフォー)が経営しているモーテル、マジック・キャッスルでシングルマザーのヘイリー(ブリア・ヴィネイト)と暮らしている。貧しい中、友達と元気いっぱいに遊ぶムーニーだったが、貧困ゆえにヘイリーが売春を始め、モーテルの他の住人との関係がこじれて、児童福祉局がやってくる。 ベイカーの前作『タンジェリン』は、撮り方は新しくても話自体はちょっと古くさいというか、どうしようもない男との関係を断ち切れない女に関する古典的な話だった。それに比べて今作はもっと話が複眼的で新鮮だし、切ないところと笑えるところのバランスがとても良い。登場人物の貧窮ぶりはかなり悲惨なのだが、全体的にユーモアがあって、暗くなりすぎずに貧困のリアリティはきっち

    ユーモアと悲惨〜『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(ネタバレあり) - Commentarius Saevus
  • 副題は大間違い〜『タクシー運転手 〜約束は海を越えて〜』(ネタバレあり) - Commentarius Saevus

    チャン・フン監督『タクシー運転手 〜約束は海を越えて〜』を見てきた。1980年の光州事件の実話をもとにした作品である。 1980年5月、ソウルに住んでいる個人タクシー運転手のキム・マンソプ(ソン・ガンホ)は、暴政に抵抗する反政府運動のせいで商売がしにくくなり、不満たらたらで暮らしている。に先立たれ、ひとり娘を抱えて家賃もろくに払えない。光州まで行って帰ってくれば大金を払うという客ピーター(トーマス・クレッチマン)の噂を聞きつけ、他の運転手のお客だったはずのピーターを乗せて光州に向かうが… 「約束は海を越えて」という副題は全然ダメ…というか、全くそういう話ではない(最初、このタイトルを見て何か陳腐な人情話と勘違いしてしまい、あやうく見逃すところだった)。結局、ピーターは生前には自分を助けてくれたタクシー運転手と再会することができないので「約束は海を越えて」ということにはならない。この映画

    副題は大間違い〜『タクシー運転手 〜約束は海を越えて〜』(ネタバレあり) - Commentarius Saevus
    miyakawa_taku
    miyakawa_taku 2018/05/10
    飯を食う場面のある韓国映画に外れはないと思っている。
  • ことばは肉となる〜『シェイプ・オブ・ウォーター』におけるすべての言語と聖遺物(ネタバレあり) - Commentarius Saevus

    ギレルモ・デル・トロ監督最新作『シェイプ・オブ・ウォーター』を見てきた。 舞台は60年代初頭のボルティモアである。政府の研究所で夜間の掃除婦をしている口のきけないイライザ(サリー・ホーキンズ)は、同僚のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)や同じアパートに住むゲイの画家ジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)と助け合いながら暮らしていた。ある日、政府の研究所にアマゾンの半魚人などと呼ばれている謎の生物が運ばれてくる。この生き物に興味を持ったイライザはゆで卵を分けてあげ、手話を教え、すぐ恋に落ちる。しかしながら軍人のストリックランドはこの半魚人(名前がわからないので便宜上、こう呼称する)を虐待し、殺害後に解剖することを提案する。思いあまったイライザは友人たちと協力して半魚人の救出を試みるが、そこに意外な助っ人が… 全体的に、ことばの力が強力なモチーフとなっている映画だったように思う。この映画では言

    ことばは肉となる〜『シェイプ・オブ・ウォーター』におけるすべての言語と聖遺物(ネタバレあり) - Commentarius Saevus
  • かなりの猫映画〜『gifted/ギフテッド』 - Commentarius Saevus

    マーク・ウェブ監督の新作『gifted/ギフテッド』を見てきた。 亡き姉の忘れ形見である姪のメアリー(マッケナ・グレイス)とともにフロリダで慎ましく暮らしているフランク(クリス・エヴァンズ)はメアリーを初めて学校にやることにする。ところがメアリーは数学分野で驚くべき才能を発揮し、これに驚いた担任教員ボニー(ジェニー・スレイト)と校長はメアリーをギフテッド教育の学校にやることを薦めるが、子どもらしく暮らせるようにしてやりたいと思うフランクはそれを拒否する。しかしそこにメアリーの疎遠になっていた祖母イヴリン(リンジー・ダンカン)が介入してきて… 特殊な才能を持った子どもとその保護者の心理を丁寧に追った、地味だがいい映画だった。普段はキャプテン・アメリカだとは思えないようなクリス・エヴァンズの地味で繊細な演技と、メアリーを演じるマッケナ・グレイスの達者な子役ぶりが大変よかった。キツい性格の祖母イ

    かなりの猫映画〜『gifted/ギフテッド』 - Commentarius Saevus
  • 男性ストリップクラブのドキュメンタリー…と思いきや、突如実録犯罪ものに〜『ラ・ベア マッチョに恋して』 - Commentarius Saevus

    『マジック・マイク』に出演していたジョー・マンガニエロが監督したドキュメンタリー映画『ラ・ベア マッチョに恋して』を見てきた。テキサス州ダラスの男性ストリップクラブ、ラ・ベアで働くダンサーたちの様子をとらえた作品だ。 前半は正攻法のドキュメンタリー映画で、若干のユーモアをまじえつつ、真面目にダンサーにインタビューしたりショーの様子を撮ったりしている。ダンサーは皆個性豊かで、30年以上もダンサーとして活躍し、若手のトレーニングも担当しているストイックなランディ(通称マスターブラスター)から、『マジック・マイク』に憧れてこの世界に入ったというチャニング(芸名がこれとは、影響受けすぎだろう)まで、皆キャラが立っている。ランディは健康と筋肉を保つために酒も煙草もやらない生活をしているそうだし、ダンサーの中には子育てを頑張っている家庭的な男性もいる一方、モテまくりのプレイボーイもいる…のだが、ラ・ベ

    男性ストリップクラブのドキュメンタリー…と思いきや、突如実録犯罪ものに〜『ラ・ベア マッチョに恋して』 - Commentarius Saevus
  • 『カサブランカ』もこうやって作られたのだろうか〜『人生はシネマティック!』(ネタバレあり) - Commentarius Saevus

    人生はシネマティック!』を見てきた。 舞台は第二次世界大戦中のロンドン。新米脚家として情報省(思いっきりわが母校であるロンドン大学セネットハウス図書館の建物が映っていた…戦時中は情報省が入っていた)によるプロパガンダ映画製作のために雇われたカトリン(ジェマ・アータートン)は、ダンケルクの救出作戦に船を出した双子の姉妹に関するニュースを得て、この話にもとづく映画を作るため取材を行う。ところがこれは実は誤報で、姉妹はダンケルクにたどり着けず帰ってきたところを記者に間違えられただけだった。困ったカトリンだが、戦争で疲弊したイギリスの女性たちを励ましたいという思いで、思いっきり脚色した映画の企画をブチあげることにする。紆余曲折の果てに撮影が始まるが… ヒロインのカトリンを演じるジェマ・アータートンはすごく魅力的だし、またかつてのスターで今では若干スランプ気味の俳優ヒリアードを演じるビル・ナイが

    『カサブランカ』もこうやって作られたのだろうか〜『人生はシネマティック!』(ネタバレあり) - Commentarius Saevus
  • 20世紀UK女子トラブル文化史〜Carol Dyhouse, Girl Trouble: Panic and Progress in the History of Young Women(『女子の問題:若い女性の歴史におけるパニックと進歩』) - Commentarius Saevus

    Carol Dyhouse, Girl Trouble: Panic and Progress in the History of Young Women(Zed Books, 2013)[『女子の問題:若い女性の歴史におけるパニックと進歩』]を読んだ。 Girl Trouble: Panic and Progress in the History of Young Womenposted with amazlet at 14.07.23Carol Dyhouse Zed Books 売り上げランキング: 824,682 Amazon.co.jpで詳細を見る サセックス大学の先生であるキャロル・ダイハウス(という発音だと思うが自信なし)が書いた、20世紀UKにおける女子の文化史である。とはいえタイトルにもあるとおり、このは女子であることがいかにトラブルとしてとらえられるか、みたいなものを

    20世紀UK女子トラブル文化史〜Carol Dyhouse, Girl Trouble: Panic and Progress in the History of Young Women(『女子の問題:若い女性の歴史におけるパニックと進歩』) - Commentarius Saevus
  • 二級市民には意見を伝える手段すらない〜『サフラジェット』(『未来を花束にして』) - Commentarius Saevus

    『サフラジェット』(『未来を花束にして』というタイトルだが、全く酷い日語タイトルである)を見てきた。1912年のロンドンを舞台に、洗濯工場でクズ上司のセクシャルハラスメントに苦しみながら働くモード(キャリー・マリガン)が女性参政権運動に参加するようになり、サフラジェットの闘士として戦う様子を描いた作品である。 全体としては、これまでミドルクラス以上の活動家が注目されがちだった女性参政権運動について、ワーキングクラスの女性たちに焦点をあてる近年の研究成果を反映した作品になっている(これについてはCarol Dyhouse, Girl Trouble: Panic and Progress in the History of Young Womenのレビューでちょっと触れたことがある)。サフラジェットというのはこの映画にも出てきたWSPUのメンバーを中心とする戦闘的な女性参政権活動家のことで

    二級市民には意見を伝える手段すらない〜『サフラジェット』(『未来を花束にして』) - Commentarius Saevus
  • 国立新美術館「ルノワール展」 - Commentarius Saevus

    国立新美術館で「ルノワール展」に行ってきた。「色彩は『幸福』を祝うために」というだけあって、幸福感のある展示だった。ただ、途中でダンスの海外を紹介する際、先行例としてロココのニンフのダンスの絵とかを持ち出すのはどうかなと…ブリューゲルの田舎の農民のダンスの絵のほうがずっとルノワールのダンスの絵に近くないか…

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  • 抑圧をはねのける生き生きした子どもたち〜『裸足の季節』(ネタバレあり) - Commentarius Saevus

    デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督の映画『裸足の季節』を見てきた。 舞台はトルコ北部のド田舎の村。両親がおらず、祖母の保護のもとで暮らしている若く美しい五人姉妹は自由にのびのびと育っていたが、娘たちが結婚できそうな年齢になってきて、封建的なエロルおじが姉妹を家に閉じ込めてしまう。外部と通信するための装置やおしゃれなものは全部捨てられ、娘たちは地味な服を着せられて良教育を受けさせられる。長女で意志が強く華やかなソナイ(イライダ・アクドアン)はもとからの恋人であったエキンと結婚できたが、大人しい次女セルマ(トゥーバ・スングルオウル)はよく知らないオスマンと結婚させられ、初夜に出血がなかったせいで病院に連れて行かれる。三女のエジェ(エリット・イシジャン)はおじから性的な虐待を受けており、結婚させられることになるが、だんだん精神的に不安定になり、行きずりの男とどう見てもすぐ見つかりそうなところで

    抑圧をはねのける生き生きした子どもたち〜『裸足の季節』(ネタバレあり) - Commentarius Saevus
    miyakawa_taku
    miyakawa_taku 2016/06/17
    シビアで良い映画でした。「都市の空気は自由にする」ってこれか、と思った。同行者によれば『ヴァージン・スーサイズ』に似ているとのこと。
  • 歩くフェミニスト〜『わたしに会うまでの1600キロ』 - Commentarius Saevus

    ジャン=マルク・ヴァレ監督、リース・ウィザースプーン主演『わたしに会うまでの1600キロ』を見た。 ヒロインのシェリル(リース・ウィザースプーン)は母ボビー(ローラ・ダーン)の死以来非常に精神不安定になっており、ヘロインとセックスに溺れて夫とも離婚する。ボロボロのシェリルは心機一転し、パシフィック・クエスト・トレイルと呼ばれる長いハイキング道をメキシコ国境からカナダ国境まで歩くという長旅に出るが… 基的には、全くハイキングの経験が無いシェリルが歩いて苦労する様子に、シェリルの過去の様子がフラッシュバックで挿入されるという構成になっている。シェリルは事前にラクダの訓練とかを学んでいたわりと準備万端な『奇跡の2000マイル』のロビンに比べると全然準備が出来ておらず、バカでかい荷物詰めすぎのバックパックを背負い、大きさが合わないを履き、間違った道具を持って行ったりして最初はひどいめにあう。し

    歩くフェミニスト〜『わたしに会うまでの1600キロ』 - Commentarius Saevus
  • 学者つらい映画にして女性映画〜『アリスのままで』 - Commentarius Saevus

    『アリスのままで』を見てきた。コロンビア大学で教えている言語学の研究者、アリス・ハウランド(ジュリアン・ムーア)が難病である若年性アルツハイマーにかかり、記憶をどんどん失っていく様子を描いた作品である。 結論から言うとこの作品はものすごい学者つらい映画であり、またたいへん丁寧に作られた女性映画である。世の中には学者つらい映画というジャンルがあると個人的に思っており、『アベンジャーズ』(ブルース・バナーとトニー・スタークの待遇の違いを見よ)とか『リトル・ミス・サンシャイン』(スティーヴ・カレル演じるフランクが自殺未遂したプルースト学者)などがこれに該当するのだが、『アリスのままで』はこれらをはるかにしのぐ学者つらい映画である。アリスはたいへん優秀な研究者なのだが、病気になることで自分の拠り所であった知性がガラガラと崩れていく。病気に気付いてショックを受けた後、毎日毎日、少しずつ認知機能が失わ

    学者つらい映画にして女性映画〜『アリスのままで』 - Commentarius Saevus
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