『ハエ娘の恐怖』の最終話です。 ーーーー 薄暗い部屋の中でぼんやりと佇んでいると、突然インターホンが連続して鳴らされた。ドアを開けると、僕の肩までくらいの身長の少女が立っている。大きなぶ厚い眼鏡とマスクをしていて、顔立ちはほとんどわからない。けれども、その華奢な体には見覚えがあるような気がした。そして、なによりも。 なによりも、彼女の甘ったるくて舌足らずな声は、耳に懐かしいものだった。 「人が毎日毎日来てたのに、どこ行ってたの?」 「毎日毎日って、いったいなにしに来てたんだ?」 とっさに口をついて出てきたのはそんな言葉で、自分でも失望する。もっと伝えるべきことがあるだろう。 「なにしに来たのかって、うまくいきました、っていう報告と、ご迷惑をおかけしました、っていう謝罪と……」 ハエ少女、いや、元ハエ少女は、そこまで言うと黙りこみ、下を向く。しばらくして彼女は、床を見つめたまま、こう続けた。