一人当たりの殺人率が最も高い街、警察によって拘束された黒人の死亡に端を発した暴動……治安の悪さを取り上げられがちなボルティモア。ここの子供たちに希望をもたらしたのは音楽だった。 ボルティモア交響楽団が10年前に放課後音楽プログラムを始めたとき、学生は30名だった。しかし今や1300名にまで増え、さらに増え続けているという──。 外から見ると、1970年代に建てられ、褐色に変色した巨大な建造物であるロッカーマン・バンディ小学校は、何やら近づき難いように見える。道の向かい側にある長屋建住宅のなかには板が打ち付けてある家もあり、この街が長年にわたって苦労してきた、くり返す貧困と断念のサイクルを思い起こさせる。 ところが4月の午後、この建物の中に入ると様子が違っていた。