東京地裁の判決において、以下のような裁判所の判断が下されたのは記憶にとどめられるべきだと思う。 エイズの診断基準自体が我が国で確立されていなかった当時から、被告人が帝京大学病院の患者にエイズを疑い、そのことを医学界に対して熱心に主張していたことも明らかである。関係各証拠から認められる本件全体の事実関係は、「被告人が、エイズ発症・死亡の危険性を十分に知りながら、資金提供を受けた製薬会社の利益を守るために、あえて帝京大学病院第一内科の医師に(あるいは我が国全体の血友病治療医に)非加熱製剤を使わせ続けた」などというような皮相かつ単純な見方(論告要旨336〜340頁参照)で説明し尽くせるものでないことは、もはや改めていうまでもないところであるように思われる。冒頭にも述べたとおり、エイズと血液製剤をめぐる問題は、複雑で多様な事実関係を含むものであり、多数の者がそれぞれの時期に種々の方向性をもった行動