ブックマーク / d.hatena.ne.jp/zoot32 (197)

  • 『紙の月』 - 空中キャンプ

    人間関係において、他者に何かを与えるということが、いまだによくわからない。自分は長らく、与えることのできる人間になるべきだと考えてきた。見返りを期待することなく与える姿勢を持つ必要があると。純粋に、贈与をしたいという感情の発露として、与える側の人間になれないものかと思案してきたが、そのような考えはやや単純だったし、与えさえすればいいというものではないらしいと気づくまでに時間がかかってしまった。仏民族学者、マルセル・モースの『贈与論』は、世界のさまざまな民族、共同体における贈与の形態を研究したテキストだが、同書では「どんな社会においても、贈り物の性質の中には期限付きでそれを返す義務が含まれている」「十分にお返しをする義務は強制的なものである」と論じられている。モースが正しいとすれば、どうやら、返礼を欠いた贈与は両者の関係を破壊してしまうらしい。 銀行で横領した巨額の金を、恋人との逢瀬でひたす

    『紙の月』 - 空中キャンプ
  • 『猿の惑星 新世紀(ライジング)』 - 空中キャンプ

  • 『思い出のマーニー』 - 空中キャンプ

    物語の冒頭、公園でスケッチをする少女は、この世界は(コミュニケーションの)輪の内側に属する者と外側に属する者に分けられると説明する。そして少女自身は、その外側にしか存在しえない者であるとつけくわえられる。彼女にとって、他者との関係性はあたかも、けわしく乗り越えがたい壁のように屹立しているのだ。たくさんの子どもたちがめまぐるしく走りまわる、動きの多い公園のシーンのなかで、ひとり孤独を抱えた少女は、みずからが外側の存在でしかあり得ないことの重圧に耐えかねて、ぜんそくの症状を悪化させてしまう*1。こうしたストーリーの起点を持つ『思い出のマーニー』で、主人公の少女、杏奈は、物語を通してつねに外部(外側)を求めて移動しつづけ、さらなる外部へと向かって逃走を繰りひろげることとなる。 少女はつねに、内側から外側への移動を試みるだろう。空気の汚れた都会から、自然の多い療養地へ。しばらく居候する親戚の家から

    『思い出のマーニー』 - 空中キャンプ
  • 『グランド・ブダペスト・ホテル』 - 空中キャンプ

  • 『ディス/コネクト』 - 空中キャンプ

    いくぶん露悪的な印象を受ける予告編から当初想像されたのは、ネットやSNSを通じて「見えない他者」の悪意や恐怖を描くといった内容だった。たしかに『ディス/コネクト』には、ネット時代の残酷さ──名を持った個々の人間をたちどころに非人格化し、尊厳を剥ぎ取ってしまうプロセス──が描かれてはいる。しかし、作においてもっとも重要なのは、他者が現実的に見える距離にいることだろう。それは場合によって、一方的(AはBを見ているが、BからはAが何者かが見えない)であったり、双方向的(A、Bがお互いを認識している)であったりするのだが、いずれにせよこの物語における他者はつねに近い場所におり、「見ることのできる存在」だ。ではなぜ作は、SNSを題材にしながら、見える距離にいる他者を描くという奇妙な迂回を必要とするのだろう。 劇中もっとも印象に残るのは、家族の病気について真剣に話す少女と、その話を聞いている彼女の

    『ディス/コネクト』 - 空中キャンプ
  • 『そこのみにて光輝く』 - 空中キャンプ

  • 『アクト・オブ・キリング』 - 空中キャンプ

  • 『アデル、ブルーは熱い色』 - 空中キャンプ

    内容に言及しているので、未見の方は注意ください。 作品につけられた英語のタイトル “Blue is the Warmest Color”(青はいちばんあたたかい色)は、作品の主旨をよく汲み取っているようにおもう(ちなみに作は仏映画である)。この映画における青は愛情の色であり、人を愛するエネルギーを示す色である。登場人物たちは劇中で豊かに感情を交わしながら、絶え間なく色彩を交換し、青の色をキーにしながら物語を組み立てていく。テーマとなる色がエモーションへ直結する点に、仏映画らしい繊細さと心遣いを感じた。 主人公が恋する女性は髪を青く染めている。この映画における、色彩=感情のルールに従って解釈すれば、他人を愛するエネルギーを強く秘めている人物ということになる。さらに彼女はデニム生地のジャケットまで着ており、愛の意欲が強いことをおもわせる。主人公の想いと同じように(主人公は青い髪の女性にひとめ

    『アデル、ブルーは熱い色』 - 空中キャンプ
    mokkei1978
    mokkei1978 2014/04/11
    "登場人物たちは劇中で豊かに感情を交わしながら、絶え間なく色彩を交換し、青の色をキーにしながら物語を組み立てていく。"
  • 『LEGO®ムービー』 - 空中キャンプ

    単なる娯楽作品という枠をこえて、ほとんどポップアートの領域に到達してしまっている『LEGO®ムービー』のビジュアルデザインを見ながら、僕は何度も唖然とさせられた。「すぐれた映画」と「特別な映画」をわける境界線は何かという問いは興味ぶかいが(『LEGO®ムービー』はあきらかに「特別な映画」である)、僕にとってそれは、映画のなかに別個の独立した世界が存在すると感じられるかどうか、そして、映画のなかに構築された世界が、それじたい固有の魅惑的なテクスチャーを持っているかどうかだ*1。ただ単に「ストーリーがすぐれている」「演技がすばらしい」というだけではなく、世界の隅々までをくまなく想像し、小さなディテールからあらたな別個の世界を作り上げていく姿勢。その箱庭のような感覚がめまいをもたらし、作品を特別なものにするのだ。 劇中、レゴでできた海面を、レゴでできた船が進んでいく印象的な場面。レゴの波は激しく

    『LEGO®ムービー』 - 空中キャンプ
    mokkei1978
    mokkei1978 2014/04/02
    "世界の隅々までをくまなく想像し、小さなディテールからあらたな別個の世界を作り上げていく姿勢。その箱庭のような感覚がめまいをもたらし、作品を特別なものにする"
  • 『ダラス・バイヤーズクラブ』 - 空中キャンプ

    mokkei1978
    mokkei1978 2014/03/23
    "利己心から始めた行為が、いつのまにか利他へと変化する、その過程こそが本当のスリルなのだ。"
  • 『鑑定士と顔のない依頼人』 - 空中キャンプ

    内容に触れているので、未見の方は注意 ことによると、自分自身を甘やかしすぎなのではないかと感じることがある。ひとり暮らしで、仕事以外に何の制約もない生活をしている僕は、持てるすべてのリソース(時間、金、労力)を自分自身だけに注ぎ込むことができる。映画館で好きな映画を見て、その後、グルメで調べたカレー店へ行き、おいしいカレーべる。書店を物色してから家に帰り、好きな小説をひたすら読みつづける。誰にも注意されず、何も指摘されない。嫌いなこと、退屈なこと、自分以外のためになることなどいっさいしないまま、好きなように時間を使うことができる。僕は、そのような生活をもう二十年以上すごしてしまった。率直にいって、僕はこの生活様式をとてつもなく気に入っている。 そうした生活を長く続けていくことで、孤独な者の生活はひとつの完結した小国の様相を帯びる。その者にとってもっとも心地よく、たしかな満足を与えてく

    『鑑定士と顔のない依頼人』 - 空中キャンプ
    mokkei1978
    mokkei1978 2014/01/07
    "さまざまな言葉に、二重の意味が生じる。モチーフそれぞれが、物語の意味を多層的にふくらませる。"
  • 『ブリングリング』 - 空中キャンプ

    mokkei1978
    mokkei1978 2014/01/06
    "彼女たちの短絡さ、幼稚さを自分自身の問題として真摯に引き寄せ、同じ場所に立って描こうとしているように思える。そして、物語の欠如という、人をもっとも不快にさせる現実にまっすぐ向き合おうとした"
  • [映画]『ゼロ・グラビティ』 - 空中キャンプ

    内容に触れているので、未見の方は注意 コーマック・マッカーシーの小説『ブラッド・メリディアン』(早川書房)でもっとも印象に残っているのは、男たちが砂漠をひたすら移動しつづけるくだりだ。暴力的な描写の多い作品だが、もっとも身に沁みて過酷であると感じたのは、直接的な暴力よりも砂漠の移動場面だった。貴重な飲み水が尽き、飢えと乾きに苦しめられながら、砂ばかりの土地を移動するほかない男たちの姿を想像するにつれて、読んでいるこちらまで喉がからからになるような感覚がもたらされるのだ。水が飲めないことの恐怖が迫ってくるようだった。むろん、これは作者の筆力に拠る部分が大きい。このような感覚を、文章を通じて読者に与えることのできる書き手は限られるだろう。読了後、蛇口をひねれば清潔な水が出てくる自分自身の環境が、何か信じられないことのようにおもえたのを覚えている。 感覚に強く訴えるタイプの作品は記憶に残る。僕に

    [映画]『ゼロ・グラビティ』 - 空中キャンプ
    mokkei1978
    mokkei1978 2013/12/15
    "映画館を出て駅へ向かって歩きながら、重力で地面に足を固定して前へ進めるだけでなく、好きなだけ酸素が吸える状況にいることがふしぎにおもえてきてしかたがない。"
  • 『そして父になる』 - 空中キャンプ

    mokkei1978
    mokkei1978 2013/10/24
    "登場人物たちの何気ない会話ややり取りのなかに、家族という近くて遠い他者の恐怖を感じて身のすくむおもいをさせられる"
  • 『ホワイトハウス・ダウン』 - 空中キャンプ

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    mokkei1978 2013/09/01
    "クライマックスのシークエンスにおいて、観客は確実に虚をつかれ、驚きとともに強く心を動かされる点にある。たとえ、いかに強引な伏線であろうとも"
  • 『風立ちぬ』 - 空中キャンプ

    mokkei1978
    mokkei1978 2013/07/22
    "震災と原発事故以降の状況が、宮崎駿の問題意識と危機感をつよく刺激し、結果として異様に密度の濃い作品ができあがったのではないだろうか。"
  • “Old Sport” について - 空中キャンプ

    映画『華麗なるギャツビー』を見た。あまりにキマリすぎのギャツビー登場シーンには笑ってしまったのだが(ディカプリオのまぶしい笑顔、その背後に炸裂する花火!)、全体的には原作のニュアンスをていねいに汲み取った、とてもクオリティの高い映画だった。映像も凝っており、語り口も工夫されていたため、143分の上映時間も短く感じるほどだった。広く知られている映像化は74年版だが、白を基調にしたクラッシィなビジュアルイメージの74年版と比較すると、今回の映画化は全編にわたって、ほとんどグリッターと呼んでもいいほどにキラキラと輝くビジュアルが印象的である。見る前はこのビジュアルがどうストーリーに影響するか気になっていたのだが、実際に見てみると、20年代の狂躁と空虚にうまくマッチしていたようにおもう。 しかし、何がともあれ “Old Sport” である。このギャツビーの奇妙な口ぐせをいかに訳すのかは、『グレー

    “Old Sport” について - 空中キャンプ
    mokkei1978
    mokkei1978 2013/06/26
    「華麗なるギャツビー」。"ロバート・レッドフォードより、ディカプリオの方がよりフェイク感がでていて、この男は現実に存在するのだろうかというイメージがあるのもよかった。"
  • 『スプリング・ブレイカーズ』 - 空中キャンプ

    mokkei1978
    mokkei1978 2013/06/23
    "フェミニズム解釈以外のとらえ方が見当たらない。あるいは彼は、単にビキニで銃を乱射する女の子が撮りたかっただけなのかも知れない。"
  • 『ゼロ・ダーク・サーティ』を見たゼ! - 空中キャンプ

    <渋谷/キャスリン・ビグロー新作> 誰しも、自分の人生が1mmも前進している気がせず、いつになったら俺の人生は動きだすのだろうかと焦燥感にかられながら、いつ終わるとも知らない待機の時間を耐えた経験を持つようにおもう。<待機>には奇妙なリアリティがある。われわれが生きる時間のほとんどは、無為で空虚な待機に費やされるのではないか。ものごとが一気呵成に進展することなどまれで、ほんの少し前進すれば、また長い待機の時間があり、あらたなきっかけを得て前進すれば、次に待っているのはさらなる待機でしかない。そのようにしか、たいていの現実は前に進まない。 『ゼロ・ダーク・サーティ』の157分という長尺は、つまりは主人公のCIA分析官マヤが耐えた待機の時間でもあり、ゆえに物語は長尺であること、観客が物語を通じて待機を追体験することが要請されるのではないだろうか。劇中、彼女はひたすらに待たされる。何の進展も新し

    『ゼロ・ダーク・サーティ』を見たゼ! - 空中キャンプ
    mokkei1978
    mokkei1978 2013/02/19
    "そのどれもが虚しく、主人公をやつれさせ、エネルギーを奪っていく。しかし、緊張感はクライマックスへ向かっていっさい途切れることがない。"
  • 『なんらかの事情』/岸本佐知子(筑摩書房) - 空中キャンプ

    このを通して描かれる、ぼんやりしてひたすらにあてのない思考を読みながら、しかし、岸佐知子というひとは、単にだらしなく虚空を眺めつつぽかんとしているのではなく、むしろきわめてシャープにぼんやりを研ぎすませながら、その形容しがたい感情を表現するのにもっとも適した言葉をつかまえる能力を、日々確実に高めているのだと気がつく。つまりは彼女は日にふたりといない、ぼんやりの専門家でありエキスパートだ。だからこそ、このはある種の読者を強く共感させるが、そもそも、そのようなジャンルを専門とする者が他にいないため、誰ひとりとして彼女と同じ文章を書くことはできないのである。 それはたぶんビタミンCの「C」のあたりが何となく酸っぱそうだからで、だからレモンはすごくビタミンっぽい。(「レモンの気持ち」) このテキストでわたしがもっともおののいたフレーズである。「ビタミンCの『C』のあたりが何となく酸っぱそう

    mokkei1978
    mokkei1978 2012/12/17
    "謎のサングラスのようでもあり、それをかけた瞬間に、世界は先ほどとはまるで違った様相を帯び始めるのだ。危険な書です。"