饒舌で猥雑で複雑な虚実を描ききった傑作。 この面白さは、J.アーヴィング「ホテル・ニューハンプシャー」を読んだときと一緒。というか、アーヴィングは「ブリキ」に影響を受けているなぁと読み取れるところ幾箇所。アーヴィング好きなら必ず気に入る(はず)。歴史と家族が混ざるとき、哀愁と残酷が交わるとき、自ら過去を語りだす「ぼく」――― 一人称の存在が必要になる。第二次大戦下の激動をしたたかに生き抜く「ぼく」は、強烈な一撃を読者に見舞うだろう。 というのも、この「ぼく」という存在は、「オスカル」という小児の「中の人」なのだから。「ぼく」は、生まれたときからオトナに成りきっている。知的で、冷静で、屈折しまくっている。周りの大人からは「オスカル」と名付けられた子どもは、「オスカル」としても判断・活動する。この「オスカル」と「ぼく」の二重主語が面白い。「オスカル」を完全に掌握するまでは、とみさわ千夏の「てや