「ビートルズのことなら、まあ一通りは知っている」という方は多いだろう。これほど語られてきた音楽家は他にいない。著者も「書かれていないことはもう何も残っていないのではないか」と書いている。だが、ビートルズとその作品がどんな背景から生まれてどんな世界に到達したのかを、世界史と世界地図の中でこんなにわかりやすく示してくれた本は他に知らない。 既存のビートルズ本とはかなり趣が異なる。例えば年譜的な記述はほとんどない。デビュー前後のいきさつも、日本公演のことも書かれていない。ジョンとポールがいつどこでどう出会ったかに触れるのも、本文の半分近くになってからだ。 そのかわり彼らが生まれ育ったリヴァプールが英国の植民地政策、とりわけ奴隷貿易でどんな役割を果たしてきたかは詳しく描く。四人とアイルランドとの関わりを血筋を遡(さかのぼ)って探る。黒人音楽への憧れが彼らの作品にどう結実したのかを、十九世紀以降の米