元死刑囚アンソニー・ヒントン(66)はかつて、目を閉じて懸命にそんな世界を空想したという。「それだけが地獄を生き抜く道だった」。現実はうめき声が漏れる独房の並ぶ監獄。他の死刑囚の執行日には、間近にある処刑室の電気椅子から焦げた臭いが届き、恐怖で吐いた。 2015年に釈放されるまで、ヒントンはそんな暮らしを30年間も送った。1986年、米南部アラバマ州の二つの強盗殺人事件で受けた死刑判決。最後は人権派弁護団の尽力で、証拠とされた銃と弾丸の一致が否定され、起訴は取り下げられた。だが、ヒントンは「私を本当の意味で有罪にしたのは証拠ではない。差別と貧困だ」と言う。