首位争いのダービーだというのに、スタンドはガラガラで、サポーターの発する爆竹の音だけが空しく響いていた。 レッドスターの本拠地、マラカナスタジアムは、セルビア共和国の首都ベオグラードの中心部から、小高い丘を上った中腹にある。 10月21日、首位レッドスターと2点差で2位につけるOFKベオグラードとの一戦を見ていた。退屈な試合だった。ボールを奪い敵陣に入っても、お互いこれといったアイディアもなくシュートに持ち込めないまま相手に奪われる。テクニックもスピードもない。最後はセットプレーからの1点でレッドスターが辛勝したものの、ユーゴ時代に『東欧のブラジル』といわれた姿は見る影もなかった。 そしてこの日もまた、鈴木はベンチにすら入れなかった。 「今から行きますか!」 電話の向こうの声はやけに弾んでいた。 試合が終わり、鈴木の携帯に挨拶の電話をかけ、25日まで滞在するからその間に食事でも……と言うや
![鈴木隆行 男の器。(高川武将)](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/e76b3e2da3079c37af436fceaf92869b09a30acf/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fnumber.ismcdn.jp%2Fmwimgs%2F5%2F2%2F-%2Fimg_5213bb1a61432c5271e25e2f7eb8e5dc6608.png)