もうだいぶ昔、十九世紀の西洋文学を読み進め始めた頃に初めてその存在を知って非常に驚いたのが、かつて「筆耕」という職業が存在したということだった。 よくよく考えてみれば、当たり前のことではある。会社や役所というものは、だいぶ昔から存在した。しかし一方で、コピー機などというものは比較的最近の発明だろう。そして、会社なり役所なりが運営される以上、手書きの文書が毎日毎日際限なく生産され、清書されたり複写されたりする必要がある。 するとどうなるか。写すのである、肉筆で。ただひたすらそれをやり続ける職業が、すなわち筆耕である。 現在の感覚からすると、ほとんど拷問のようなものなのではないか……などと思ったのだが、今となっては、当時の感覚はもはやわからなくなっているのかもしれない(だいたい、会社にコンピュータがなかった頃のことすら、既に我々の多くは思い出すことが困難にありつつあるではないか)。 絶