「論文を書く能力がないのに名誉欲はあって、見せかけの業績で教授になった人なんていっぱいいる」。元東邦大准教授(52)の麻酔に関する研究論文172本が捏造(ねつぞう)と認定された問題を取材する中で、ある大学病院関係者が放った言葉に私は開いた口がふさがらなかった。どこの世界にも成果や栄誉をめぐる競争はあるだろうが、データの真実性に絶対の責任を負うべき研究者がそれを放棄し、業績を増やすことにきゅうきゅうとしている。「世界最多」の不名誉な記録は個人の問題では済まないと私は思う。約20年間も放置した研究界の責任は大きく、対応が遅きに失したと言わざるを得ない。 日本麻酔科学会は6月末、元准教授の1990年以降の論文212本のうち少なくとも172本にデータ捏造の不正があったと認定した。なぜこれほど長期間発覚しなかったのか。 論文の大半は、他の研究者との共著だ。調査は「捏造は単独で行われ、共著者の関与はな
今月1日から販売が禁止された牛の生レバー。消費者団体「食のコミュニケーション円卓会議」が6月、「放射線による殺菌」を検討するよう、厚生労働省に要望した。食品への放射線照射は殺菌効果が高い一方、消費者には抵抗感が強い。安全性をめぐる議論を追った。【小島正美】 同円卓会議は国への要望とともに、レバーへの放射線照射を独自に実験した。日本原子力研究開発機構の高崎量子応用研究所(群馬県高崎市)の協力を得て、真空パックで冷凍された国産の生レバーで実施。放射線照射によりレバーの風味や色がどう変わるかをテストし、解凍前・後の照射で差が出るかも調べた。 コバルト60を使い、ガンマ線(レントゲン検査のX線と同種)を当てた。線量は1・5キログレイと3キログレイ。グレイは吸収線量の単位で、ガンマ線の1グレイはほぼ1シーベルトに相当する。一般市民ら17人が参加し、皿に切り分けられた生レバーに顔を近づけ、においや色に
厚生労働省は10日、大阪市の印刷工場で、過去の作業環境の再現実験を実施した結果を発表、インキの洗浄作業に携わった従業員にさらされた化学物質の濃度は最大20倍であることがわかった。 同省によると、塩素系有機溶剤のジクロロメタンが米国産業衛生学術会議が示す8時間平均許容濃度に比べ2.6〜7.2倍、1、2−ジクロロプロパンが同6〜20倍であったと分析した。使用量によってはさらに大量の物質にさらされていた可能性があるとしている。高濃度の有機溶剤が胆管がんの発症に影響した可能性が示唆される結果となった。【大島秀利】
大阪市の印刷会社で胆管がんが多発している問題で、この印刷会社での使用が指摘される有機溶剤を使っていた米国の化学繊維工場で、胆管がんなどによる死者が高い率で発生していたという研究報告が行われていたことが分かった。日本でも、この米国の会社と同様の化学繊維製品が作られており、問題を調査している熊谷信二・産業医科大准教授は「国内の化学繊維産業も注意する必要がある」と指摘している。【大島秀利、高瀬浩平】 報告は90年、米国人の研究者が、欧州の専門誌で発表した。問題の化学繊維工場は米国南東部サウスカロライナ州にあり、半合成繊維の「トリアセテート繊維」を製造。天然の木材と酢酸を混ぜ、溶剤として化学物質「ジクロロメタン」を使っていた。生産は86年に中止されたという。 研究では、この工場で1954〜77年に働いた従業員計1271人について、86年までの動向を調査。その結果、胆管がんで2人、関連するがんの胆管
内閣府男女共同参画局の「女性に対する暴力に関する専門調査会」(会長・辻村みよ子東北大大学院教授)は9日、刑法の強姦(ごうかん)罪を、被害者からの告訴がなければ起訴できない「親告罪」から外し、捜査当局が職権で起訴できるよう法改正を求める報告書原案をまとめた。今後政府の男女共同参画会議で議論する。 強姦罪を巡っては10年12月に閣議決定された「第3次男女共同参画基本計画」が、見直しを視野に入れた検討を関係省庁に求めていた。これを受けて調査会は昨年9月から11回にわたり、性犯罪対策について話し合った。 被害者の名誉やプライバシーを守る観点から、刑法は強姦罪を親告罪と定めているが、被害者自身が告訴を判断するため精神的に重い負担を強いられたり、被害者が子どもや知的障害者の場合は、裁判で告訴能力を否定される例もあり、関係者から「泣き寝入りにつながる」と指摘されていた。国連の自由権規約委員会は08年、強
「週刊文春」6月21日号に興味深い記事が載っている。「小沢一郎/妻からの離縁状/便箋11枚、全文公開」である。編集部に聞いた逸話が面白い。 発売は14日。翌日夕方までに完売した(公表部数70万)。同誌としては、09年夏の「酒井法子逮捕」の内幕もの以来、3年ぶりの記録だそうだ。文春の公式ウェブサイトを見ると、17日夕方までに1・5万回以上ツイートされ、フェイスブック上では「いいね!」ボタンが4万回以上押されている。 それほどの反響があった記事なのに、いつもは食いつきのいいテレビの情報番組がウンともスンとも言わない。 じつは、文春編集部は、発売寸前、東京のほぼすべての民放テレビの取材に応じていた。ところが、オンエアされない。調べてみると、小沢系の国会議員からプレッシャーがかかったらしいことが分かった。「取り上げるなら、もうオタクの番組には出ませんよ」と。 政治家のテレビ出演が日常化した時代、週
東近江市の金属加工液製造会社「スリー・イー」(福谷泰雄社長)が17日、同社が開発した水溶液に放射性セシウムの線量を弱める効果があることが実証されたと発表した。金属に植物由来のカリウムなどを混合した溶液で、大学教授らも効果を確認したが、線量を抑制するメカニズムは今のところ不明。同社は福島第1原発事故で課題となっている被災地の除染への活用を目指している。【姜弘修】 同社によると、約10年前に同社商品の加工液にX線を遮る効果があることを偶然発見したのが発端。福島第1原発事故を受けて加工液を改良し、福島県内の高線量区域の土壌や雑草に噴霧して日光を当てると、徐々に線量が下がる効果が確認されたという。 効果を検証する長浜バイオ大の大島淳教授(遺伝子工学)によると、大阪大大学院の中島裕夫助教(放射線基礎医学)が実証実験中。汚染土壌に同社の水溶液を加えたところ、ベータ線が3日で約30%、ガンマ線が2週間で
加工食品や飲料、化粧品などに広く使われている着色料「コチニール」の摂取で、呼吸困難などの急性アレルギー反応が起きる可能性があるとして、消費者庁が注意を呼びかけている。同庁が食品添加物のアレルギー発症で注意を喚起するのは初めて。厚生労働省もコチニール入り製品を扱う全国の事業者に、発症事例があれば報告するよう通知した。 コチニールは、中南米などに生息するエンジムシが原料の赤色の着色料。食品衛生法で食品添加物として認められている。飲料や菓子、医薬品、口紅などに広く利用されている。今年4月、国内の病院から同庁に、コチニール入り飲料で急性アレルギー反応を起こした患者の報告があった。 過去にもコチニール摂取による急性全身性アレルギー反応「アナフィラキシー」が報告されていたことから、注意喚起に踏み切った。 独協医科大越谷病院の片桐一元(かずもと)教授は「精製過程で混じる不純物の中のたんぱく質が、アレルギ
放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は11日、日本テレビの報道番組「news every.」が4月25日に放送した特集「食と放射能 水道水は今」について、「公正な放送とは言えない」として審議入りすることを決めた。同番組で神奈川県内の飲料水販売企業を取り上げた際、制作会社から派遣されたディレクターがこの企業経営者の親族の女性を顧客として登場させ、「水道水は不安があるので水を買って飲んでいる」といった発言を放送した。番組取材班は企業側から顧客として女性を紹介され、日本テレビの担当ディレクターらも事実関係を確認していなかった。 昨年1月放送の「news every.サタデー」でも、ペットが対象のマッサージ店を紹介する際、番組スタッフが店員と知りながら一般客として登場させていたことから、日本テレビは取材対象企業の関係者を利用者として扱わないようにガイドラインを設けていた。【土屋渓】
新潟市の篠田昭市長は5日の記者会見で、運営難にあるマンガ同人誌即売会「ガタケット」(事務局・新潟市中央区)について「頑張っているので活動を継続してほしい。支援策があれば、情報交換して必要なところや可能な所を詰めたい」として支援策の検討を示唆した。市文化政策課によると、これまで市はガタケットに資金援助をしたことはない。 ガタケットは約30年の歴史があるが、参加サークル数の減少や東日本大震災で開催が中止になるなどし、運営が厳しくなっている。 一方、市は県の漫画家の紹介などをする「マンガ・アニメ情報館(仮称)」を来年5月に、マンガの創作を体験できる「マンガの家」を同年2月にそれぞれ開館する整備を進めるなどマンガやアニメを活用したまちづくりを進めている。【宮地佳那子】
大阪市交通局のリストねつ造問題を受け、会見する大阪維新の会市議団=大阪市役所で2012年3月30日午後1時1分、川平愛撮影 大阪市交通局の非常勤嘱託職員(32)=27日付で解雇=が労働組合名義の職員リストを捏造(ねつぞう)した問題で、大阪維新の会の杉村幸太郎市議(33)=1期目=がリストの存在を労組に確認せず、公表に踏み切っていたことが分かった。一部の維新市議団幹部も事前に了承しており、「裏付けに追われていたら議員活動などできない」と開き直る。専門家からは「責任を取るべきだ」との批判が出ている。 市議団は30日、記者会見を開き、交通局と労組が組織ぐるみで市長選に関与していたと断定的に指摘したことへの反省の意を示した。しかし、「真偽が確定しなければ質疑できないなら、市民の真実を知る権利の障害になりうる」と主張、謝罪の言葉はなかった。 杉村市議は2月10日の市議会市政改革特別委員会で「交通局と
大手検索サイト「グーグル」に実名などの文字を入力して検索する際、途中から予測文字や補足情報を表示する「サジェスト機能」を巡り、日本人男性がプライバシーを侵害されたとして、米国のグーグル本社に表示差し止めを求める仮処分を申請し、東京地裁(作田寛之裁判官)が申請を認める決定をしたことが分かった。だが、米グーグルは「日本の法律で規制されない」と拒否し、被害が救済されない事態となっている。決定は19日付。【中川聡子】 米グーグル拒否「日本の法律で規制されない」 男性側によると、男性の実名を入力しようとすると、途中からフルネームとともに犯罪行為を連想させる単語が検索候補の一つとして表示され、それを選択すると男性を中傷する記事が並ぶという。 男性は数年前、当時の勤務先で思い当たる節がないのに退職に追い込まれ、その後の就職活動でも採用を断られたり内定が取り消されたりする事態が相次いだという。このため調査
学識豊かで、丁寧で、語り口もスマート……なのに、何かがおかしい。「原子力ムラ」の人たちを取材してきて、そう感じていた。そんなモヤモヤを晴らしてくれる人がいると聞き、会いに行った。著書「原発危機と『東大話法』」が話題の東京大学東洋文化研究所教授、安冨歩さん(49)その人に。【宍戸護】 ■エクスキューズ <世界は、人類が地球環境と調和しつつ平和で豊かな暮らしを続けるための現実的なエネルギー源として、原子力発電の利用拡大を進め始めていました。このような中で、東日本大震災および福島第一原子力発電所の事故が起こりました。我が国は、事故終息に向け最大限の力を発揮しなければなりません……> 一読、批判しようのない“きれい”な文章。実はこれ、東大大学院工学系研究科原子力国際専攻のウェブサイトに今、掲載されている「原子力工学を学ぼうとする学生向けのメッセージ 福島第一原子力発電所事故後のビジョン」の冒頭の一
3月20日、髪をピンクに染めて登校した女子生徒(12)に停学処分を科した米デラウェア州ニューアークの中学校が、人権団体からの抗議を受け、処分を取り消した。写真は停学処分を受けたブリアーナ・ムーアさん(2012年 ロイター/Tim Shaffer) [20日 ロイター] 髪をピンクに染めて登校した女子生徒(12)に停学処分を科した米デラウェア州ニューアークの中学校が20日、人権団体からの抗議を受け、処分を取り消した。 ブリアーナ・ムーアさんは先週、成績向上のご褒美として、父親に髪をピンクに染めてもらった。しかし、翌日登校したところ、髪は「自然な色、茶色、ブロンド、黒、自然な赤/赤褐色」とする学校の方針に違反したという理由で、ムーアさんは停学処分を受けた。 その後、ムーアさんの処分を聞いた米国自由人権協会(ACLU)のデラウェア支部が、憲法違反ではないかと抗議し、学校側が処分を取り消した。3日
大人より乳幼児のほうが、ナノサイズ(ナノは10億分の1)の微粒子を肺の奥にとどめやすいことを、米ハーバード大の津田陽(あきら)さん(生体物理学)らがラットを使った実験で突き止め、12日付の米科学アカデミー紀要に発表した。ディーゼル車の排ガスに含まれる浮遊物質の多くがナノ粒子。乳幼児への大気汚染影響の軽減策が迫られそうだ。 津田さんらは、直径20ナノメートルの放射性イリジウムの微粒子を作り、生後7日▽14日▽21日▽35日▽90日以上のラット各8匹に1時間吸わせ、酸素と二酸化炭素を交換する肺の組織「肺胞」に残ったナノ粒子の沈着率を調べた。 その結果、肺胞ができた直後の生後21日のラット(体重70~80グラム)の沈着率が約5割と最も高く、生後90日以上の大人のラット(体重300グラム)の1.5倍以上あることが分かった。肺胞はブドウの房のような形をしていて、小さいほど内部で渦を巻いてナノ粒子を取
◇Lawrence Repeta(明治大学法学部特任教授) 大阪市の橋下徹市長は2月、市職員へのアンケート調査で、労働組合活動や支持する政治家などに関する個人情報を強制的に答えるよう命じた。命令が許されるのならば日本の民主主義社会にとって大きな後退になるだろう。 米国史に詳しい人なら、プライバシーや結社の自由に対する同様の攻撃があったのをご存じだろう。最も有名なのは1950年代にマッカーシー上院議員らが率いる米上院小委員会が俳優や作家、学者らの政治歴を調べた例だ。共産主義が米国を席巻するという恐怖感から行われ、後に「赤狩り」と呼ばれた。 職員への調査で、橋下氏は「正確な回答がなされない場合には処分の対象となりえます」と述べたが、マッカーシー議員らの調査を拒否した人たちも処罰によって脅かされた。多くの作家や大学教授が政治信条や政治活動の秘密を守る憲法上の権利を主張して、仕事を失うなどした。
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