癒されるねえ、と彼は言う。なにそれと彼女は訊く。なにって、つまり己の身の裡の回復が亢進し快いですね、という意味です。彼はそのように説明し彼女はからだの半分で寝返って皮膚でもって壁の温度を吸う。視界を走査する。たっぷり泳いだあとのシャワーの水分の空気に溶けたのと、半分ずつあけたビールの缶と、さっきまでのうたた寝の気配と、そのほかのなにも見あたらない。視線を内側に向ける。ちいさい刺をみつける。その輪郭を描写する。 癒した覚えゼロだし、私なんにもしてあげてないし、だいいち癒しとかそういうの、嫌いなんだけど。だけど、と彼はその語尾を引きとる。だけど俺はそれを口にしたので、それであなたは。それで私は、不可解でやや不快、だと思う。不快になることない、と彼はねむたくて気持ちいい声のままで言う。だってあなたの嫌いな癒しは俺の言ったこととはなんの関係もないんだ。 癒すなんて下賎な言い回しだよ、まったくのとこ