松下は、人の使い方がうまいと言われた。人を上手に褒めて使うという定評があった。しかし、実際には、そんなに上手な言葉を使い、巧みな話し方をしていたわけではない。むしろその話し方は必ずしも流暢ではなく、雄弁でもなかった。弁舌さわやかというよりも、どちらかといえば平凡な言葉で訥々と話をしていた。 それにもかかわらず、松下とどのような接し方をしても、多くの人が感激したのは、松下の根本的なところでの人間に対する認識のためであったと思う。 松下は、自分がほんとうに思うことを、自分のほんとうの言葉で話していた。本心を、自分の言葉で、謙虚に話していた。それだからこそ多くの人が感動したのだと思う。 メッキではない純金の言葉 松下の言葉は純金であった。メッキではなかった。純金の言葉であったからこそ、毎回同じ言葉であったとしても、あるいは洒落ていない、極めて平凡な言葉を使いながらでも、相手の心を打つことになった