「西園寺公と政局」より 二月二十六日の朝、五時四十分頃に木戸から電話がかゝつて来て、「いま内大臣が襲撃された。岡田、高橋両大臣も襲撃された。内大臣の私邸には寄りつくことができない。自分は取敢へず宮内省に行くからよろしく頼む」とのことであつた。自分は木戸に、「宮内省に行つてから、興津にすぐ電話をかけてくれ」と頼んだ。それから自分も支度をして門鑑を持ち、宮内省に行つて木戸と連絡をとりながら好い時期に興津に行くつもりで、門を出て、徒歩で三宅坂の方に向かつた。やゝ暫くしてふと頭を上げると、前方十間ぐらゐの所に兵隊が剣つき鉄砲を持つて並んでゐる。驚いた自分はまづゆつくり後戻りをして、今度は反対の方向から出ようと思つてゐると、そこにもやはり機関銃があり、兵隊も並んでゐたので、一まづ家に帰つた。 しかし木戸の安否が気になつたので、暫くして家から電話で宮内省に問ひ合せると、三四十分して木戸から電話がかゝつ