こんな話がございます。 都が奈良にあった頃の話でございます。 大安寺に弁西ト申す僧がございまして。 この者は白堂(びゃくどう)を生業トしておりましたが。 白堂トハなにかト申しますト。 欲深き民百姓どもがお寺にやってまいりまして。 あれやこれやト願い事を口にいたしますが。 その願いを仏に取り次いでやる者のことを申すそうで。 「子宝に恵まれとうございます」 「病身の母がどうか回復いたしますよう」 「縁結びをどうかひとつ」 ナドと、好き勝手なことを口々に申しますが。 弁西は嫌がる気色は微塵も見せず。 そのすべてを漏らさず書き留めてやり。 一つ一つを民に代わって丁寧に。 御仏(みほとけ)へ奏上いたします。 中には己のかつて犯した罪業の。 お目こぼしを求めに来る輩もある。 「実はむかし、朋輩を手に掛けたことがございます」 「隣の家の倅を人買いに売り渡しました」 「米蔵に盗みに入ったのは私でございます
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