で。そいつが言うわけ。 「福士は最後まで走らせて良かった」って。 あ、そいつってのは大学の時に知り合った、元陸上部。まぁ地方だし、国立だし、そんな地元の小バコに毎週末のように来るようなクラバーとはだいたい顔見知りになる。フレンドリーなヤツだったら、乾杯のひとつも交わせば友人にもなる。たとえ文学部のぼくとはほとんど接点のない、体育推薦枠のむさくるしいインカレ経験者でも。 そいつは大学では長距離をやってたんだけど、高校1年までは短〜中距離。そのあきらめた理由ってのが納得のいくようないかないような。 高校陸上部に入ってちょっとしたら、ゲスト指導として、中距離の実業団選手が来たんだと。いわく、そこで限界を知ったと。実力の? 「いや、本能の」 本能? 「空中浮遊の仕方は知ってるか? いや、座禅組んでけいれんで飛ぶ方じゃなく。そう、むかし家の押し入れの上の段からやって怒られた。『右足が沈む前に左足を出