子どもの頃の思い出は本物か―記憶に裏切られるとき [著]カール・サバー[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)[掲載]2011年7月17日著者:カール サバー 出版社:化学同人 価格:¥ 2,730 ■いつから覚え、なぜ変容するか 本書には二つの柱がある。一つは、幼年期の記憶はいつから始まり、それが正確か否か、科学的に解明しようとの論点。もう一つは幼年期の記憶を甦(よみがえ)らせ、それをもとに訴訟(主に性的虐待)に持ち込むことを奨励する心理療法家たちの暴走を批判する論点だ。特に後者については、この20年余に顕著になり、彼らは一様に記憶回復療法を採るが、それは統一性も高度の知的裏付けもない危険な療法との見方が示されている。 幼年期のトラウマから解放されて思い出された記憶、例えば父親は実は殺人者だったとか、父と教師に性的虐待を受けたとの記憶が、そのまま法廷に持ち出される。その種の裁判事例では