はじめに 今日世界各地で見られる紛争は、国家の中央政府とその国内の民族集団との間で起きているものが多い。民族集団は独立ないしは自治を求めるが、中央政府はそれを許そうとしない。こうした民族紛争を国際社会はどう考えるべきだろうか。中央政府の主張と民族集団の独立・自治要求をどのような基準でどのように評価したらいいのか。中央政府の主張する領土保全はどこまで絶対的なものなのか。民族集団にはそもそも独立・自治を要求する権利といったものがあるのか。 こうした問いにはっきりとした解答はない。しかし、近年自決と分離に関する議論は盛んになってきており、とりわけ冷戦後に頻発した民族紛争の解決を通じていくつもの事例が生み出され、自決に対する考え方も変わってきた。本稿ではこうした近年の動向をふまえて民族集団の主張がどう評価されるべきかを考えてみたいと思う。 自決とその主体 自決(self-determination