杉江松恋(以下・杉江) 直木賞は初めてが1作、あとは2、3回目でほぼ横並びです。では、お気に入りと受賞予想をお互いに。 マライ・メントライン(以下、マライ) お気に入りも受賞も『黒牢城』です。超大穴として『同志少女よ、敵を撃て』。 杉江 私のお気に入りは『黒牢城』で、受賞予想は『塞王の楯』です。 マライ おおお、また微妙な被りが! 杉江 第11回アガサ・クリスティー賞に輝いた作者のデビュー作です。 マライ 知人の出版関係者の間で、これほど賛否分かれた作品は珍しいです。「『鬼滅の刃』の換骨奪胎っぽさが見事」とする肯定派と「そもそも小説というよりゲームシナリオっぽい」と拒む否定派、いずれも興味深い。まず肯定派ですが、これは「ぽい」じゃなくて「まんま」鬼滅ですね。家族をまるごと鬼に惨殺されて、炭治郎じゃなくて鬼化した禰豆子が復讐に立ち上がる。で、政治イデオロギーからジェンダー問題に焦点をシフトし