史上初となる決勝での逆転満塁本塁打。忘れられない試合を動かしたのは、甲子園を埋め尽くした5万人の観衆だった。 広陵のエース、野村祐輔は感慨深げに振り返る。「誰か作家さんがいるんじゃないか、という印象深い試合だった。それが決勝というのがね」 2007年8月22日、佐賀北との決勝。チームは二回に2点を先取。七回にはエンドランが決まり、相手エース久保貴大から2点を奪った。野村は小気味の良い投球で七回まで、被安打わずか1。「こっちのリズムで試合が進んでいた。このままいけるのかな」 暗転したのは、4点リードの八回。1死から連打を浴びると、佐賀北ベンチの三塁側を中心に雰囲気が一変した。ボール球一つで、拍手と声援は渦を巻くように増していった。 この年、プロ野球の裏金問題に端を発し、特待生問題が表面化していた。巻き起こった歓声は判官びいきもあって、公立校の佐賀北には追い風となり、私立の広陵には強烈な向かい