チベットセッケイ(チベットで撮影)。エベレストで記録された種のひとつだ。(PHOTOGRAPH BY J DONG LEI, NATURE PICTURE LIBRARY) 2019年春、トレイシー・セイモン氏は氷が割れる音で眠りから覚めた。セイモン氏がいたのはエベレストの麓。テントの下では、氷河が動いていた。 米国ニューヨークに本部を置く野生生物保護学会の分子生物学者であるセイモン氏は、3週間かけて氷河を歩き回った。エベレストは氷点下の気温、限られた酸素、強烈な嵐という条件がそろう標高8000メートル超の山で、地球上で最も過酷な環境のひとつ。ここで、生物多様性の現状を把握することが目的だった。 人を寄せ付けない自然環境であるにもかかわらず、世界最高峰のエベレストには生命があふれている。セイモン氏のチームはエベレストの南側だけで、地球上に存在する目(もく)の16%を発見した。目は分類学の階