第二次大戦直後、ソ連に後押しされた北朝鮮と西側諸国が支援する韓国の間で戦われた朝鮮戦争。今年はその休戦から70年を迎える。若き日々をこの戦争に翻弄されながらも、医師となる大志をもって欧州に渡り、祖国の統一と平和を祈りながら、2022年夏、静かに帰天したドクター・チェ。同年勃発したロシアによるウクライナ侵攻は彼の目にはどう映っていたことだろう。放浪の医師ドクター・チェを偲びつつ、伊東順子氏が晩年のインタビューから書かれた記事を二回に渡って掲載する。 ~~~~ 「数奇な運命」という言葉は、実は誰にもあてはまる。どんな人生もこの世に生まれた偶然から始まり、その後も時代に渦に巻き込まれてしまう。平和な時代の小さな渦でも何度も軸足を奪われるが、戦争の時代の大きな渦となったらその威力は凄まじい。 彼を紹介してくれたのは、ベルギー在住のジャーナリスト、栗田路子さんだった。 2017年の夏、初対面の彼女か