筆者が非常勤講師として担当している、大学での日本美術通史の授業では、旧石器時代から縄文時代までに、毎年かなりの時間を費やしている。以後の長い造形芸術の歴史を辿るにあたって、「art」という語を起源に持つ「artifact」、人間の手から生まれた実用のための「人工物」と、見て・感じるために作られた造形芸術=「art」との間にどのような違いがあるのか(あるいはないのか)、どんなプロセスを経て人類社会の中から造形芸術が生み出され、また変化していくのか、学生たちに考えてほしいからだ。 授業のために参照した資料の中で、松木武彦が認知考古学の立場から執筆した小学館『全集 日本の歴史1 旧石器・縄文・弥生・古墳時代 列島創世記』の解説は、驚くほど明瞭に腑に落ちた。今回新たに書き下ろされた『美の考古学―古代人は何に魅せられてきたか―』でも、その基本的な立ち位置は変わらない。だが「日本の歴史」から「人間とそ