出勤途中に、路上でひどく咳き込む人を見かけた。 それが、わたしの知る限り、最初の《繭の季節》の兆候だった。 考えてみれば、前回の《繭》がいつだったか、すぐには思い出せないくらい時があいている。いつ次が始まってもおかしくはない。 「缶メシ、いま何日ぶんあったかな」 わたしはマルにメッセージを送り、仕事場に入った。 わたしが勤務しているのは、お菓子メーカーの工場だ。ビスケットなどの焼き菓子を主につくっている。 自動運転のトラックで搬入された小麦粉や卵、バターなどの原材料は、ロボットアームで自動的に生産ラインに流し込まれる。ときどき、装置の故障が起きて、甲高いアラームが工場内に鳴り響くと、わたしたちのような工場スタッフが駆けつけて、故障箇所を修復する。ほとんどの工程が、自動化されている。 しかし、わたしたちにはもうひとつ、重要な役割がある。検品だ。 生産されたお菓子は、レシピに沿った原材料をつか