兵庫医科大学 医学部および自然科学研究機構 生理学研究所の共同研究グループは、呼吸の頻度やパターンを変えることで、記憶力の強化と悪化の両側面が引き起こされることを初めて発見した。 本研究で用いた遺伝子改変マウスは、光遺伝学(オプトジェネティクス)という技術により、呼吸中枢に光を照射すると、呼吸パターンを自在に操作することができる。マウスの記憶課題中に、記憶する瞬間に呼吸を停止させると、海馬ニューロンの活動が変化し、記憶力が低下するという驚きの結果が得られた。さらに、呼吸の周期性をランダムにした結果、記憶力が強化されたり、呼吸の頻度を半分に減らした結果、記憶が間違った形で作られてしまうなど、呼吸パターンを操作することにより記憶力の強化と悪化の両側面が引き起こされることを発見した。 この結果から、呼吸活動は、脳に作用して記憶や思考に関わる情報処理をある一定の単位としてまとめる役割を持つ上、記憶
日本学術会議の梶田隆章会長ら幹部が定例の幹事会後に記者会見し、提言後のフォローアップなどについて報告するとともに、菅義偉首相に任命を拒否された会員候補の教え子の学生が誹謗中傷などの嫌がらせを受けていることを明らかにした。 提言内容はゲノム編集技術のヒト胚への応用など分野横断的な視点を持つものや、ウィズコロナ、ポストコロナにおける医療体制など中長期的視点に立つもの、大型研究計画に関するマスタープランなど総合的な視点に立ったものなどで、提言が社会に与えた影響を調査したインパクトレポートを作成してフォローアップしている。 第23期は71件の提言に対し、54件のインパクトレポートが作成された。レポートでは情報発信力の弱さなど課題も指摘されているが、大型研究計画に関するマスタープラン提言によって文部科学省が大型研究計画推進に向けた基本構想ロードマップを作成するなど成果が少なくないとした。 任命拒否さ
ロボットが何か失敗をしたときに複数がいっしょに謝罪したほうが、相手により受け入れられやすいことが、国際電気通信基礎技術研究所の木本充彦研究員、同志社大学文化情報学部の飯尾尊優准教授らの研究で分かった。 その結果、2台で謝るほうが謝罪を受け入れてもらいやすくなるうえ、別のロボットが片づけをする仕草を見せると謝罪の効果が大きくなることが分かった。研究グループは人が失敗したときと同様に、複数で謝罪することで失敗を受け入れてもらいやすくなるほか、ロボットが有能と判断されるのではないかとみている。 コロナ禍をきっかけに全国の飲食店などで給仕するロボットが増えている。ロボットが何か失敗をしたときに、別のロボットがいっしょに謝ったり、片づけを手伝ったりする機能を設計段階で盛り込んでおくことが、今後必要になると考えている。 論文情報:【PLOS ONE】Two is better than one: Ap
長時間労働がメンタルヘルスに悪影響を与えるといわれるが、残業自体ではなく、長時間労働による睡眠不足と不規則な食事がメンタルヘルスを害していることが、東京医科大学精神医学分野の渡邉天志医師、志村哲祥医師らの研究で明らかになった。 その結果、長時間労働は心身のストレス反応に直接影響しないことが分かった。しかし、長時間労働が食事の不規則さや睡眠時間の短縮を招き、それらがうつや心身のストレス反応を引き起こしていた。 研究グループは労働時間の短縮が実現しても、睡眠不足や不規則な食事が続けば症状が改善しないが、長時間労働が続いても睡眠時間が確保され、食事が規則正しく摂取できれば、メンタルヘルスへの影響を限定的な範囲に抑えられるとみている。 ただ、今回の研究では因果関係の証明はできていない。研究グループは後続の研究で因果関係の解明を期待している。 論文情報:【International Journal
神戸大学大学院の内匠透教授らの国際共同研究グループは、特発性自閉症の原因が胎児の時の造血系細胞のエピジェネティック(注)な異常であり、その結果が脳や腸に見られる免疫異常であることを明らかにした。 自閉症発症における免疫障害の重要な発達段階と免疫系の広範な関与を考慮し、研究チームは共通の病因が広範な免疫調節不全の根底にあり、異なるタイプの前駆細胞にあると仮定した。免疫細胞のもとになる血球系細胞に注目、さらに、胎児の時の造血に関わる卵黄嚢(YS)と大動脈-生殖腺-中腎(AGM)に焦点をあてて解析を行った。 研究グループは、自閉症モデル動物のBTBRマウスを用いてAGM血球系細胞を解析し、免疫異常の病因としてHDAC1(ヒストン脱アセチル化酵素1)を同定した。また、YS血球系細胞の解析により、ミクログリア(中枢神経系グリア細胞の一つで中枢の免疫を担当)発達異常の病因として同じくHDAC1を同定し
自動車の環境対策は走行時の二酸化炭素排出削減ばかりに注目が集まっているが、製品寿命を延ばすことで二酸化炭素削減に大きな効果があることを、九州大学大学院経済学研究院の加河茂美主幹教授、大分大学経済学部の中本裕哉講師らの研究グループが突き止めた。 そのモデルを使って日本の乗用車の物理的寿命、新車の経済的寿命、中古車の経済的寿命を調べたところ、3つの寿命を10年間延長することで排出される二酸化炭素量がそれぞれ30.7メガトン、26.4メガトン、5.2メガトン削減できることが明らかになった。 研究グループは二酸化炭素の排出削減に自動車の寿命延長が効果的だとし、修理が容易でより長く使用できる設計、メンテナンス市場を活性化させるアフターサービスの充実、燃費の優れた自動車を長期間利用する意識づけなどが必要としている。 論文情報:【Journal of Industrial Ecology】A gener
ハガキで精子が送れる、凍結乾燥精子をシートで保存する技術を山梨大学が開発 大学ジャーナルオンライン編集部 山梨大学大学院の伊藤大裕大学院生、若山照彦教授らの研究グループは、凍結乾燥したマウス精子を薄いプラスチックシートに挟んで保存することに世界で初めて成功。1冊のアルバムで膨大なマウス系統を管理でき、短期なら常温保存も可能で、ハガキで郵送した精子からマウスの作出にも成功した。 近年、研究グループはマウス精子を使って哺乳類精子の凍結乾燥(フリーズドライ)の技術開発を進め、マウス精子の常温保存(机の引き出しで1年以上)や、国際宇宙ステーションでの長期間保存に成功。しかし、ガラス製のアンプルビンを必要とし、ガラスが破損する危険性や大量保存に不適などの欠点があった。 そこで今回、薄いプラスチックシートに凍結乾燥精子を挟んで保存する技術を開発。この技術は破損の心配がなく作製コストも低い。現時点では長
東北大学の研究グループは、人工知能の一つである機械学習の手法を活用することで、自閉スペクトラム症(ASD)が異種の疾患の集合体である可能性があることを世界で初めて突き止めた。 こうした中、本研究では、人工知能技術である機械学習を用いて、ASDが示す多様な症状からクラスター分析を行い、ゲノムワイド関連解析(GWAS)と組み合わせることで、遺伝的感受性因子を特定するチャンスが増えるのではないかと仮説を立てた。 実際に、ASDという疾患名でまとめられた「患者群全員」と対象群を用いたGWAS手法では、有意な関連が観察されなかった一方で、ASD患者をグループ化(クラスタリング)し、「クラスターごとの患者群」と対象群とで実施されたGWASでは、65個の有意な遺伝子座が特定されたという。つまり、ASDは異種の疾患の集合体である可能性があり、症例をより均質な集団にクラスタリングすることで、それぞれの集団の
日本経済大学は、2021年度入学試験のうち、1月8日出願受付開始の「一般選抜」オンライン入試において、AIを活用した「オンライン試験監督システム」を導入する。 導入するオンライン試験監督システムは、株式会社旺文社と株式会社Edulabが提携し、サービス展開している「Check Point Z」。試験実施中の受験者の様子やPCの操作ログ等を全て記録し、AIと人により二重チェックすることで、受験中の様子を厳密に確認する。このシステムは英検CBTでも導入されており、九州の大学入試としては初の導入となる。 「オンライン受験」を実施する受験生は、事前に接続テスト等を行い、問題があった。場合は大学が機器やWifiルータを無料で貸し出す。試験日にはサポートデスクを設置してリアルタイムでサポートし、通信障害で受験できなかった場合は別日に追試が可能となっている。 参考:【日本経済大学福岡キャンパス】~学びを
政府は2018年の著作権法改正で創設が決まっていた授業目的公衆送信補償金制度の施行を前倒しし、2020年4月28日からスタートさせる政令を閣議決定した。施行により、大学などのオンラインによる遠隔授業で著作物を使用する際、個別に許諾を得る必要がなくなり、著作物の円滑な利用が可能になる。 2020年度に限り、補償金額を特例として無償とすることが、授業目的公衆送信補償金等管理協会で決定されているが、2021年度以降は有償となる。著作権の教育利用に関する関係者フォーラムで運用指針の議論を進めたうえで、授業目的公衆送信補償金等管理協会が有償での認可申請をする準備を進めている。 新型コロナウイルスの感染拡大により、対面授業から遠隔授業へ切り替える大学が増えているが、遠隔授業で著作権がある文章などを利用するには、その都度著作者の許諾を得る必要がある。これでは手続きが煩雑で、円滑に遠隔授業を進められないこ
2020年4月7日、一般財団法人高度情報科学技術研究機構は「新型コロナウイルス感染症対応の研究」を支援するためHPCIスーパーコンピュータ資源を無償で提供することを発表した。 今回、学術界、産業界を問わず、新型コロナウイルス感染症対策を行っている研究者に臨時の公募を行い、合計14PFLOPS※の性能を有する多様なスーパーコンピュータ資源を無償で提供する。募集は4月15日から開始し、利用開始から2021年3月末までの最大6カ月利用できる。 【利用可能なHPCIのスーパーコンピュータ】 北海道大学 情報基盤センター Grand Chariot / Polaire 東北大学 サイバーサイエンスセンター ベクトル型スーパーコンピュータ / 並列コンピュータ 筑波大学 計算科学研究センター Cygnus 最先端共同 HPC 基盤施設 (JCAHPC) Oakforest-PACS 東京大学 情報基盤
兵庫県立大学自然・環境科学研究所の中濵直之講師、京都大学大学院農学研究科の井鷺裕司教授、東京大学大学院総合文化研究科の伊藤元己教授らの研究グループは、遺伝情報の維持が難しかった昆虫の乾燥標本について、遺伝情報の劣化を防ぐ作製手法を新たに開発した。 また、コスト面での課題もあった。昆虫の遺伝解析用サンプルは主に冷凍やエタノール中で保存されてきたが、乾燥標本と比べ保管にコストがかかる。そのため多くの自然史博物館では遺伝解析用サンプルの収蔵点数が少なく、ほとんどが乾燥標本として保存されているのが現状だ。昆虫標本の遺伝情報を効果的に利用するには、保管コストの安い乾燥標本の状態で、遺伝情報を長期間維持する手法を開発する必要があった。 そこで今回開発されたのが、プロピレングリコールを用いて長期間遺伝情報を保持する手法だ。プロピレングリコールは、食品や医薬品などに使われている有機化合物。昆虫の乾燥標本と
東京工業大学は、2020年度から全ての大学院生を対象にデータサイエンス(DS)と人工知能(AI)の教育を開始する。教育実施にあたって、Yahoo! JAPANや国内外のグローバル企業と協力し、大学院生が持つ高度な専門知識とDS・AIを組み合わせて、社会的課題解決や新産業創出に貢献できる人材育成を図る。 具体的には「データサイエンス・AI特別専門学修プログラム」と名付けた専門のコースを開設し、DS・AIの基盤系科目と応用系科目の教育を行う。授業と演習を対で行い、要件を満たす単位を取得した学生には、修了時に学長名の修了証書が授与される。基盤系科目は情報理工学院が中心となり、全学院の教員も参画して、ビッグデータ処理、AIプログラミング、深層学習などを教育。応用系科目では、実社会での課題をテーマに、Yahoo! JAPANや国内外のグローバル企業からの講師による実践的な授業と演習を実施する。 プロ
社内外の専門家と共に様々な社会課題の解決に向けたフォーラムの開催や提言を行う株式会社パソナグループの「パソナ総合研究所」(所長:竹中平蔵)は、運営委員会による第5回提言「人生100年時代に求められる教育とは ― 大学は働き続けたい人々を支えるプラットフォームに生まれ変われ!―」を取りまとめた。 そこで、パソナ総合研究所では、大学(院)が、働き続けたい人々を支えていくためのプラットフォームに生まれ変われるよう議論を進め、今回、運営委員会による提言「人生100年時代に求められる教育とは」を取りまとめた。 提言では、1.動かない大企業の人事部に対しての「企業におけるメンバーシップ型からジョブ型への抜本的な人事制度の見直し」、 2.期待に応えられない大学に対しての「大学の運営改革と政府による高等教育への監督体制の見直し」、3.期待できない中高年向けリカレント教育に対する「中高年向けリカレント教育の
中央教育審議会大学分科会は人工知能やIoTの普及で社会が大きく変貌する2040年を見据えた大学院教育の改善策として、学生の進路が見込めない専攻について定員の削減や社会的なニーズが高い分野への振り替えなどを大学側に求める方向を打ち出した。 博士課程教育リーディングプログラムに取り組んだ大学では、産業界と連携した教育や研究が進んでいるが、各大学が自らの強みや特色を踏まえた人材育成ができておらず、中でも博士課程後期課程は大学院のカリキュラムと社会、企業の期待との間でギャップが生じている。大学分科会はこれら課題とポスト確保の困難さが響き、学生に大学院進学をためらわせているとみている。 こうした点を解決する方策としては、時代の要請に見合う質の高い教育を専門分野、普遍的分野の両方で実施するとともに、国際的に通用する学位授与に見直す必要があると提言した。 さらに、博士後期課程修了者の進路を企業も含めて確
経団連は今後の若手人材育成や大学改革に対する提言をまとめ、大学生に経済のデジタル化、グローバル化への対応と同時に、リベラルアーツ(教養)を高めることを求めた。情報科学や数学、歴史、哲学など基礎科目を大学で全学生の必修とし、学部、学位、カリキュラムのあり方も根本的に見直すよう提案している。 文理融合はさらに進めるべきで、理系の学生に高度な語学教育、文系の学生に基礎的なプログラミングや統計学を教えるよう要請。法学部、経済学部、理学部、工学部といったこれまでの学部のあり方についても、真剣に見直すよう求めている。 経団連は大学側と高等教育のあり方について対話する場を設けたい意向。経団連からは中西宏明会長らが出席し、国公私立大学の学長と新時代に求められる人材や人材育成方法などで意見交換することを提案した。 トップレベルの会合のあと、実務者レベルの作業部会を編成し、経団連と大学が共同で取り組む事項など
日本学術会議は、東京都内で幹事会を開き、軍事研究をしないとする新声明を決めた。過去2回にわたって出してきた声明を継承する内容。防衛省は2015年から装備品開発を目的に研究者へ資金提供する新制度を始めているが、日本学術会議の新声明が大学の研究参加に影響を与えそうだ。 日本学術会議は1950年に戦争を目的とする科学研究を絶対に行わないとの声明、1967年に軍事目的のための科学研究を行わないとする声明を発表している。 しかし、防衛省が2015年から軍事研究への助成制度をスタートさせ、助成制度応募の可否をめぐって大学内で混乱が見られたことから、2016年から検討委員会を設置して声明を見直すかどうかの対応検討に入った。 2月には東京都内で安全保障と学術の関係に関するシンポジウムを開き、軍事研究をしないとする過去の声明の取り扱いについて意見交換したが、その際にも軍事研究に反対する声が続出した。これを受
引用文献データベースに収録される論文数や書籍数、競争的資金の獲得件数が増えるほど教授への昇進確率が上がる一方、研究業績の発表がない期間が長いほど昇進確率が低下する-。文部科学省科学技術・学術政策研究所が研究者データベースを使い、研究業績と教授昇進の関係を分析したところ、こんな結果が出た。 それによると、昇進に影響を与える要素として引用文献データベースに収録される論文数や書籍数、競争的資金の獲得件数、性別、研究業績がゼロの年の有無、研究キャリア内で業績ゼロの時期を設定し、分析した。 その結果、国際的情報出版社の「エルゼビア」が提供する引用文献データベース「スコーパス」に収録された論文数、書籍数、競争的資金の獲得件数が多くなるほど、教授昇進に良い影響を与えていることが分かった。 研究業績発表ゼロの期間が長いほど教授昇進確率が低下していたが、ネガティブな影響を与えているのは研究スタートから最初の
自治医科大学小児科の山形崇倫教授、中央大学人間総合理工学科の檀一平太教授らの共同研究グループは、光を用いた脳機能イメージング法を利用して注意欠如・多動症(ADHD)の症状を個人レベルで可視化することに成功しました。 現在のADHDの検査方法にはチェック項目に答える形式の主観的な物、患者の35%に見られる脳波の異常を検出するものなどがありますが、いずれも特定が難しく見逃してしまうケースが少なくありません。そのためADHDを判別するための客観的で感度が高い方法の開発が求められていました。 今回の実験では6歳から14歳までのADHD児30名、定型発達児30名にADHDの症状を計るのに適した行動抑制ゲームをさせました。この6分間のゲームの最中に脳活動変化を光トポグラフィ※という方法によって計測しました。光トポグラフィは頭の上から近赤外線を当てることで、体を傷つけることなく脳機能を測定する方法です。
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