飯田隆氏から新著『新哲学対話』(筑摩書房)をいただいた。初めの対話編「アガトン」を一読して深く感銘を受けたので、それについて論じてみたい。 飯田氏は、我が国の分析哲学を旗艦として牽引してきた本格的哲学者であり、亡き大森荘蔵先生の高弟である。その著作は、常に周到かつ精妙であり、一般より専門家の中で評判の高い玄人好みのものと言ってよい。しかし今般氏が出版した本書は、質の高さは従来のものと変わらないが、その語り口の平明さや入門的親切心もさることながら、ひときわ遊び心にあふれた滋味豊かな作品に仕上がっている。氏を身近で知る人になら、こういう遊び心が氏の持ち味の一つであることはよく知られているが、本書ではそれが大きな魅力となっている。 有名なプラトンの対話編『饗宴』を下敷きに、その後日談を対話でつづるという形式は、単にプラトンの模倣にはとどまらない文学的出来栄えを見せて瞠目させる。特に、プラトンでは