アヴェロエス(1126-98)は実人生においても哲学史においても数奇な運命を辿った哲学者だ。新プラトン主義経由の読解からアリストテレスを解放する徹底的な彼の注解は、そのほとんどがラテン語に翻訳され、盛期スコラ学の基礎を築いた。1270年代にはパリでアヴェロエス派が勃興したが、同じ時期にパリ大学に赴任していたトマス・アクィナスはわざわざ『知性の単一性についてアヴェロエス派を駁す』を著してこれと鋭く対立する。 アヴェロエスの「知性単一論」というのはアリストテレスの知性論を独自に発展させた議論で、カッシーラーの簡潔な紹介によればこう。(「個と宇宙」邦訳p.158から抜粋) 「思惟の根本的な力は個体化を卓越している。なぜなら知性そのものは分割されるものではなく、絶対的統一をなすから。思惟は単なる生物としての個別化から自我が抜け出すこと、つまり自我が個別性を克服し、一なる絶対知性、すなわち能動知性と