疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。何度か出された通達が「いくらなんでももういいだろう」という感じで止まり、いわゆる行動制限が解除されたのがつい最近のことである。 疫病自体はぜんぜんおさまっていないので、相変わらずワクチンを打ったりマスクをしたりはしている。疫病以降に知り合った人とはじめて食事に行くと、「こんな顔で笑うんだ」と思う。顔の下半分を出さずに過ごしていたのだから、そりゃあそうだろう。口というのは表情のけっこうな割合を占めるものなのだ。 そのようにしてはじめて顔を見た職場の若い人が、ぽつりと訊くのである。人を恨んだことってありますか。自分をすごくひどい目に遭わせた相手への感情に、どう折り合いをつけたらいいと思いますか。 わたしが生まれ育った家庭は悲惨なところで、職場の人間もそれを知っている。検索すれば本名と職場が出てくるたぐいの仕事をしているために