阿部和重の小説を取り上げるのは『ピストルズ』以来二度目となる。「神町サーガ」あるいは「神町トリロジー」と呼ばれる三部作の掉尾を飾る本書は1600枚、三部作中最長の超大作である。神町(「じんまち」と読むらしい)は山形県東根市に実在する地名であり、阿部の生地である。本書は単独でも十分に楽しめるが、『シンセミア』『ピストルズ』につながる内容であり、とりわけ『ピストルズ』と深い関係がある。三部作を合わせると4400枚という量であるから、前日譚を読むのが面倒であれば、私のレヴューに目を通して『ピストルズ』の内容を頭に入れてから本書に向かってもよいかもしれない。三部作に共通するのはサーガの名のとおり、いずれも地方の典型的なサバーブ、神町を舞台にしていることである。しかし神話的な暴力や差別が横行するフォークナーのヨクナパトーファ、中上健次の紀州といった荒ぶるトポスに比べて、神町はなんとも薄っぺらだ。そこ