【今週はこれを読め! SF編】異なる認知、現実の外側へ~キム・チョヨプ『この世界からは出ていくけれど』 文=牧眞司 韓国SFの俊英キム・チョヨプの、『わたしたちが光の速さで進めないなら』につづく二冊目の短篇集で、七作品を収録。著者は「日本語版への序文」のなかで、つぎのように述べている。 わたしたちは、見て、聞いて、触ることのできるこの世界を現実だと思っているけれど、実際には"感覚バブル(sensory bubble)"に閉じこめられて生きています。 そのバブルが弾ける、あるいは別なだれかのバブルと触れあうとき、世界がゆらぐ。それをフィリップ・K・ディックは現実崩壊として描き、グレッグ・イーガンやテッド・チャンは認知科学のアイデアを介して哲学的なテーマへと接近する。キム・チョヨプは、ディックのように強迫神経症的ではないし、イーガンやチャンほどメタフィジカルな色合いではない。主人公の人生に寄り