旅行中に部屋から何かを盗まれるより、部屋の鍵を落とすことのほうが怖いから、鍵をかけずに出発した。朝早くに出ようと思っていたのに豪雨と雷と眠気に阻まれ、昼過ぎにようやくアパートを出る。電車とバスを乗りついで東北自動車道の蓮田SAに着いたのは午後三時半だった。従業員用の出入口を通って一般道から高速道路に入ることは容易いし、べつに違法でもないけれど、不思議だなあと思う。七十リットルの大きなバックパックを背負っている旅行者など、普通は高速道路上で見かけることはない。俺はどこから来たんだろうか。 数日前に髪は短く切り揃えていたし、前日にユニクロで買ったばかりの真新しい安物のシャツも着ている。天気はいつ崩れてもおかしくないが当分は大丈夫そうだ。サービスエリアの出口に近い、休憩所から見えやすい場所に立つと、思いきって左手を挙げた。付近で休んでいた人々の視線を一気に集める。誇らしいような照れくさいような感