67歳の歌手が、昔の知り合いに電話をかけまくって歌う場所を確保し、全国ツアーと称して旅している——という話を聞いたら、どんなイメージを持つだろうか。その場所とは旅館の宴会場であり、病院のロビーであり、公民館だ。つまりドサまわりである。そういうイメージを持つのが普通だろう。それはけっして間違いではない。たしかにドサまわりなのだ。 もう少し説明を加えておくと、その歌手の名前はミラクル・ローズ。本名は野原(のはら)ゆかり。19歳で歌手デビューし、出したレコードは7枚。ヒットしたのは「無愛想ブルース」だけ。レコード会社との契約は10年で切れ、あとは細々と歌手活動をしてきたが、30年前に引退。いまは函館五稜郭(はこだてごりょうかく)近くで4坪半のスナック「野ばら」を経営している。客は常連ばかり。しかも60代はハナタレで、後期高齢者が過半数を占める。 本書は、古希に近いその元歌手がスナックを休んで旅に