ブックマーク / huyukiitoichi.hatenadiary.jp (15)

  • 今まで意識したこともなかった領域に言葉で触れる方法を教えてくれる、期待の新進アメリカ作家のSF短篇集──『アメリカへようこそ』 - 基本読書

    アメリカへようこそ (角川書店単行) 作者:マシュー・ベイカー,田内 志文KADOKAWAAmazonこの『アメリカへようこそ』はアメリカの新進作家マシュー・ベイカーの初の短篇集の邦訳である。どうやらアメリカでは「注目すべきストーリーテラー10人」に選ばれるなど注目の作家のようだが僕は聞いたことがなく、SFの短篇集らしいという前情報だけで読み始めたのだけど、これが読んだらたまげてしまった。 扱っている題材はマインドアップロードから犯罪をおかすと記憶を消される世界の男の話まで奇想系まで様々なのだが、とにかくその筆致、語りは誰かに似ているようで似ていない、オリジナルなもので、他で体験できない心地よさが残る。「これまで意識したこともなかった領域に言葉で触れた」とでもいうような短篇群で、その良さがうまく表現できないのだが、だからこそたまげたのだ。単純明快でわかりやすい作品ではないが、その分、文の

    今まで意識したこともなかった領域に言葉で触れる方法を教えてくれる、期待の新進アメリカ作家のSF短篇集──『アメリカへようこそ』 - 基本読書
    screwflysolver
    screwflysolver 2023/04/25
    架空の地名がその地図を見た人に使われ実在の地名になることがあるので、辞書に乗ったら実際に使う人が現れるのは自明(?) https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%BC
  • 空間認知の心理学・神経科学的基盤から、漫画の中の空間論まで──『Mind in Motion:身体動作と空間が思考をつくる』 - 基本読書

    Mind in Motion:身体動作と空間が思考をつくる 作者:バーバラ・トヴェルスキー森北出版Amazon意識、思考といったものは、我々の頭の中だけで作られるものではなく、空間と身体動作と意識の相互作用・統合によって形作られていくものである。たとえば、極端なことをいえば人間の赤ん坊は自分の手や足といった体が自分のものであることを理解していない。手を自分で、意識的に動かしているとは気づいていない。 親が指を近づけると、最初赤ん坊は握るが、それは反射的なものであって、見えなくなると追いかけない。だが、次第に手と意識が統合されていき、離れていく指やガラガラを自分の意志で追えるようになる。そのあたりは地味で基的な部分だけれども、「身体動作」と「空間」と「思考」の関係は広い領域に広がっている。 たとえば、我々は地元であれば大抵、道端で駅はどこだとか市役所はどこだとか聞かれれば、その場を起点にし

    空間認知の心理学・神経科学的基盤から、漫画の中の空間論まで──『Mind in Motion:身体動作と空間が思考をつくる』 - 基本読書
    screwflysolver
    screwflysolver 2021/05/12
    『Mind in Motion:身体動作と空間が思考をつくる』
  • 2020年に刊行され、おもしろかったノンフィクションを振り返る - 基本読書

    2020年ももうすぐ終わるので、読んでおもしろかったノンフィクションを振り返っていこうかと。今年はまるっとの雑誌でノンフィクションの新刊ガイドを担当しており、例年よりもたくさん読んだような、あまり変わらないような。とはいえ、おもしろいノンフィクションには山ほど出会ったので、思い出しながら書いていく。 まずは科学系から! LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界 作者:デビッド・A・シンクレア,マシュー・D・ラプラント発売日: 2020/09/01メディア: Kindle版科学系のノンフィクションの中で最もおもしろかったのはなにかといえば、デビッド・A・シンクレア、マシュー・D・ラプラントによる『LIFESPAN 老いなき世界』になる。シンクレアは老化の原因と若返りの方法に関する世界的な権威で、老化は克服できる病であり、克服すべきだ、とこのの中で強烈に主張している。ほとんどすべての

    2020年に刊行され、おもしろかったノンフィクションを振り返る - 基本読書
    screwflysolver
    screwflysolver 2020/12/17
    非フィクションがすべてノンフィクション(ルポルタージュ)なわけではないよね確かに/色のふしぎはやっぱり読みたい
  • 「色覚異常」とは何なのか──『「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論』 - 基本読書

    「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論 (単行) 作者:裕人, 川端発売日: 2020/10/24メディア: 単行(ソフトカバー)この『「色のふしぎ」と不思議な社会』は、小説家やノンフィクション作家として活躍する川端裕人さんによる「色」についての一冊である。「色」をどうやって認識するのかという科学的な側面からの解説と、それを「正常」に認識すること、できないことはどういうことなのか、色覚異常とされた人々は、社会でどのように扱われるべきなのかという社会学的な観点からの主張が網羅的に書かれた一冊である。 資料を集め始めてから5年、取材をはじめて4年、書き始めて3年もかかったという超大作だが、それだけ取材に時間をかけただけのことはある、あまりにも広い科学と社会の両面にまたがった傑作だ。僕は色覚異常にたいする認識としては、検査をした記憶もなければ色覚で困った経験もなく、「な

    「色覚異常」とは何なのか──『「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論』 - 基本読書
  • 時間旅行が当たり前になった世界特有の精神病理を描き出す、時間SF✕ミステリ──『時間旅行者のキャンディボックス』 - 基本読書

    時間旅行者のキャンディボックス (創元推理文庫) 作者:ケイト・マスカレナス発売日: 2020/09/10メディア: Kindle版この『時間旅行者のキャンディボックス』はケイト・マスカレナスのデビュー作にして、時間旅行が当たり前に存在する世界での様々な精神的な病を描き出す、時間旅行心理学とでもいうような領域を切り開いた珍しいタイプの時間SFである。 時間旅行はウェルズの『タイムマシン』以降SFではありふれたギミックだけれども、大抵の場合、時間旅行をして「何をなすのか」が重要になる。最近だと歴史改変合戦で自陣の勝利に導くことが目的のアナリー・ニューイッツ『タイムラインの殺人者』が出ているし、ジョディ・テイラー『歴史は不運の繰り返し』は、時間旅行を用いることで歴史事件の調査を行う人々が中心の物語である。一番よくあるのは、『STEINS;GATE』のように、大切な人を守るためや、死や世界の破

    時間旅行が当たり前になった世界特有の精神病理を描き出す、時間SF✕ミステリ──『時間旅行者のキャンディボックス』 - 基本読書
  • 韓国の注目の女性作家チョン・ソヨンによるSF・幻想系を中心に集めた極上のSF短篇集──『となりのヨンヒさん』 - 基本読書

    となりのヨンヒさん 作者:チョン・ソヨン,吉川 凪出版社/メーカー: 集英社発売日: 2019/12/13メディア: 単行この『となりのヨンヒさん』は韓国の注目の女性作家チョン・ソヨンによるSF・幻想系を中心に集めたSF短篇集。こういっちゃあなんだけど「となりのヨンヒさん」というのはそそられるところのないタイトルだ。他の短篇も「養子縁組」、「デザート」、「帰宅」、「雨上がり」とかそっけないワンワードのものばかり。 なので、事前予想としてはうーん、なんともいえないけどめっちゃつまらなそうだなあと思っていたんだけど、実際に読み始めてみれば、日常の風景や違和感がSF的事象や幻想的事象の介在によって増幅される丁寧丁寧丁寧な短篇集で、夢中になってあっという間に読んでしまった。各題からも「文学寄りなのかなあ」と思いきや伴名練の「なめらかな世界と、その敵」的な「アリスのティータイム」であったり、多くの

    韓国の注目の女性作家チョン・ソヨンによるSF・幻想系を中心に集めた極上のSF短篇集──『となりのヨンヒさん』 - 基本読書
  • 市場経済に組み込まれたヒーローたち──『ザ・ボーイズ』 - 基本読書

    にこやかな顔で写真にうつるホームランダーAmazonPrimeで配信中の海外ドラマ『ザ・ボーイズ』(全8話)を観た。舞台となっているのは、凄まじい力を持ったスーパーヒーローたちが正体を隠して人助けをする──のではなく、営利企業に雇われているタレントとして活動をしている社会。 彼らはその巨大な力を使って強盗やテロリスト、災害救助などを行う「正義の味方」なのだが、彼らが所属しているのは営利企業なので、「金を儲ける」ことが役目である。イベントにも出演していって市民たちと交流をするし、Tシャツ、フィギュアなど売れるものはなんでも売る。無論適当に人を助けているわけではなく、都市ごとに莫大な金の動く契約を結び、認可されたヒーローだけがその地域で活動できる「市場経済に組み込まれたヒーローたち」のいる社会なのである。彼らは人を助けるが、評価されるのは何人を助けたかではなくどれだけの金を稼ぎ出すかだ。 で、

    市場経済に組み込まれたヒーローたち──『ザ・ボーイズ』 - 基本読書
    screwflysolver
    screwflysolver 2019/10/08
    タイバニへの言及がなくて逆にびっくりした
  • 最近イチオシの海外ファンタジィ──『風の名前』 - 基本読書

    風の名前 1 (キングキラー・クロニクル第1部) 作者: パトリックロスファス,中田春彌,山形浩生,渡辺佐智江,守岡桜出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2017/03/22メディア: 文庫この商品を含むブログ (5件) を見る書『風の名前』は、キングキラー・クロニクルと名付けられた現代ファンタジィ三部作の第一部になる。もともと日では2008年に白夜書房から三部作で出ており、書はそれを五冊に分冊したものだ。なんでもシリーズ、映画が制作が進行している上に、オリジナルプロットとなるTVシリーズ版も同時に制作しているとか。 国では2011年に第二部が出て、2017年に第三部が出るとか出ないとかいう話で、再刊行するにはちょうどいいタイミングだったのだろう。個人的に、日のファンタジィが量もあるし質も高いしで、海外ファンタジィには乗り切れないことも多いんだけど*1、書はきちんとその個性

    最近イチオシの海外ファンタジィ──『風の名前』 - 基本読書
    screwflysolver
    screwflysolver 2019/09/19
    これCrywolfがすすめられてたやつ
  • 言葉によって綴られた幻想の架空都市──『方形の円 偽説・都市生成論』 - 基本読書

    方形の円 (偽説・都市生成論) (海外文学セレクション) 作者: ギョルゲ・ササルマン,住谷春也出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2019/06/20メディア: 単行この商品を含むブログを見る言葉によって綴られた幻想の架空都市──とお題が出されれば、幻想文学ファンは息もつかせず「(カルヴィーノの)見えない都市ー!」と轟をあげると思うがここに邦訳として新鋭が誕生した。ルーマニアの作家、ギョルゲ・ササルマンによる『方形の円 偽説・都市生成論』である。計36個の架空都市が一つ数ページの中におさめられており、ページをめくるたびに想像だにしなかった都市の姿が立ち現れてくる。 一つ一つの都市の記述が短いのでおお! おお! と驚きつつページをめくっていくうちにあっという間に読み終わってしまう(紙のの長さが213ページなのもあり)。ただ、その内実はストーリーの展開というよりかは都市のスケッチに近

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  • 異世界からの”帰還後に”苦悩を抱き続ける少女たち──『不思議の国の少女たち』 - 基本読書

    不思議の国の少女たち (創元推理文庫) 作者: ショーニン・マグワイア,原島文世出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2018/10/31メディア: 文庫この商品を含むブログを見る『不思議の国の少女たち』とは不思議な題名だが、読み始めてすぐに納得がいった。これは「不思議の国」や「ナルニア国」といったファンタジックな世界から”帰還した後”の少年少女たちが集まる全寮制の学校での物語なのだ。子供たちは異世界で大冒険を成し遂げた後、さまざまな理由によって元の世界へと帰還する。そして、その時の経験を大人たちに語るが、まずもってその内容が正しく理解されることはない。 大人からすればそれは子供にありがちな幻想的な誇大妄想、あるいは何らかの理由によって家出した時の、精神的トラウマによるショック症状にしか捉えられないからだ。そうした子供たちを救うために、学校は存在する。『入学するかもしれない子どもたちにと

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  • ル=グウィンによるギフトのギフト──〈西のはての年代記〉 - 基本読書

    ギフト 西のはての年代記? (河出文庫) 作者: アーシュラ・K・ル=グウィン,谷垣暁美出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2011/02/04メディア: 文庫 クリック: 13回この商品を含むブログ (15件) を見る普段このブログでは比較的新しいについて書いているのだが、最近ル・グインの原稿を書くために作品を読み返していたらいてもたってもいられなくなってきたので〈西のはての年代記〉について簡単にであっても書き残しておきたいと思った。このブログがはじまったのは2007年のことなので、それ以前に読んだもののことってほぼ記録が残ってないんだよね(神林長平先生のほとんどの作品とかもそう)。 というわけで〈西のはての年代記〉である。これは『ギフト』『ヴォイス』『パワー』からなる三部作ものだ。ギフトと呼ばれる特殊な能力を持つ人々(動物の声を聴いたり、未来を幻視したり)がいる特殊な世界を舞台

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  • 多様なイラストレーションによって彩られた、奇想小説のワンダーランド──『ワンダーブック 図解 奇想小説創作全書』 - 基本読書

    ワンダーブック 図解 奇想小説創作全書 作者: ジェフ・ヴァンダミア,朝賀雅子出版社/メーカー: フィルムアート社発売日: 2019/05/27メディア: 単行この商品を含むブログを見る書『ワンダーブック 図解 奇想小説創作全書』は、『全滅領域』(これを原作とした映画netflixで公開されている)から始まる《サザーンリーチ》三部作で知られる作家・ジェフ・ヴァンダミアによる執筆ガイドである。書には他の執筆ガイドと異なる特徴が主に2つある。ひとつは、あらゆるページに挿入されている多彩なイラストレーションが、ガイドの内容を補完し、時にまるっと置き換えてしまっていること。その演出は多岐にわたっており、そうしたイラストレーションをぱらぱらとめくって鑑賞し、画集的に読むだけでも無茶苦茶に楽しませてくれる 。 冒頭にいきなり挟まれているSF歴史図特徴のもうひとつは、書が焦点をあてているの

    多様なイラストレーションによって彩られた、奇想小説のワンダーランド──『ワンダーブック 図解 奇想小説創作全書』 - 基本読書
  • 抽象絵画とかぜんぜんわかんねぇ、という人にこそ読んでもらいたい──『なぜ脳はアートがわかるのか 現代美術史から学ぶ脳科学入門』 - 基本読書

    なぜ脳はアートがわかるのか ―現代美術史から学ぶ脳科学入門― 作者: エリック・R・カンデル,高橋洋出版社/メーカー: 青土社発売日: 2019/06/22メディア: 単行この商品を含むブログを見るなぜ脳はアートがわかるのか。そんなことをいうと、「いや、そもそも自分にゃさっぱりアートはわからねえ」という人が湧いて出そうだが、かくいう僕もそのタイプ。真四角の図形をぽこぽこ置いて、赤だの黄色だので適当に塗ったとしか思えない絵が抽象絵でありアートなのだと言われてもなにが凄いのだか皆目わからない。 だが、ある意味ではそういう人たちにも読んでほしいだ。これを読むと、なるほど、確かに人間は、そうした一見意味がよくわからない抽象的なアートを「わかる」ことができるのだということが、脳科学的な観点から理解することができるようになる。また、普段からアートを楽しんでいる人たちも、ターナーやモネ、ポロックにデ

    抽象絵画とかぜんぜんわかんねぇ、という人にこそ読んでもらいたい──『なぜ脳はアートがわかるのか 現代美術史から学ぶ脳科学入門』 - 基本読書
  • ファンの行動力学──『ファンダム・レボリューション:SNS時代の新たな熱狂 』 - 基本読書

    ファンダム・レボリューション:SNS時代の新たな熱狂 作者: ゾーイフラード=ブラナー,アーロン M・グレイザー,関美和出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2017/12/06メディア: 単行この商品を含むブログを見るファンというのは怒らせると怖いものだ。 うまくいっている時は物凄い熱量で作品やグッズを推し、コスプレをし、自分たちで新しい何かをつくりはじめ、その全てが作品のパワーになる。その代わりに自分たちがないがしろにされていると感じたり、怒りの琴線に触れると、その熱量は一気に批判へと向かって炎上する。たとえば、現在絶賛公開中のスター・ウォーズのエピソード8も、ファンの間で凄まじい批判が巻き起こり、『最後のジェダイ』をなかったことにしろと賛同者を募るキャンペーンまで始まってしまっている。 いったいどのような行動がファンの集まり、ファンダムを激怒させるのか。それに対処するにはどのような

    ファンの行動力学──『ファンダム・レボリューション:SNS時代の新たな熱狂 』 - 基本読書
  • SFをもっと楽しむための科学ノンフィクションはこれだ! - 基本読書

    記事名そのまま。SFが好きなのに科学ノンフィクションを読んでない人をみると「現代の最先端科学なんて、どれもほとんどSFでめちゃくちゃ面白いのにもったいない!」と思う。こんなことを考えたのも昨日、オービタルクラウドを最近出したばかりのSFジャンルをメインに執筆している藤井太洋さんのASCII.jp:ITとともに生まれた産業革命に匹敵する質的な方法論 (1/4)|遠藤諭の『デジタルの、これからを聞く』 こんなインタビュー記事を読んだからだ。 藤井さんはデビュー作であるGene Mapperを含め、現代で可能な科学技術の延長線上に起こりえる地続きの未来描写が特徴的で、「今・ここにある技術の凄さ」が感じられるところが毎回凄いんだよなあとこれを読んでいて思い返していた。またそこで使われているアイディアは現代でもそのまま使えるものが多いし。技術的には現実が既にSFなのだ。 透明マントだって現実化して

    SFをもっと楽しむための科学ノンフィクションはこれだ! - 基本読書
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