スティーヴン・キングの新作はずずんと分厚い時間SFスリラーだ。超物理理論で設計されたタイムマシンなどではない。安さが売りものの個人営業ハンバーガーショップの薄暗い倉庫の「穴」が過去へ通じている。ジャック・フィニイ的な「なぜか開いている日常の裂け目」だ。ただしフィニイなら古き良き時代へのノスタルジーだが、キングはそう甘くない。過去は蜜でもあり茨でもある。憧憬でもあり恐怖でもある。それはコインの表裏のように分離できない。 主人公である高校教師ジェイクは、血腥い過去を改変するため「穴」を抜けてメイン州デリー(キング読者にはお馴染みの街だ)へと赴く。そのたたずまいをジェイクはレイ・ブラッドベリが描くグリーンタウンに喩え、「そういえばフランク・ダニングは、ブラッドベリ作品に出てくる善良な人々のひとりに似ていないだろうか? しかしブラッドベリのグリーンタウンにもまた秘密が隠されていたのだ」と考える。フ